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ティェンタオの自由訳漢詩 1840

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 南北朝41ー庾信
   擬詠懐二十七首      詠懐に擬す 二十七首 
   其七              其の七

  楡関断音信     楡関(ゆかん)   音信(おんしん)断(た)たれ
  漢使絶経過     漢使(かんし)   経過(けいか)絶ゆ
  胡笳落涙曲     胡笳(こか)     落涙(らくるい)の曲
  羌笛断腸歌     羌笛(きょうてき)  断腸(だんちょう)の歌
  繊腰滅束素     繊腰(せんよう)  束素(そくそ)を滅じ
  別涙損横波     別涙(べつるい)  横波(おうは)を損(そこ)なう
  恨心終不歇     恨心(こんしん)  終(つい)に歇(や)まず
  紅顔無復多     紅顔(こうがん)  復(ま)た多きこと無し
  枯木期填海     枯木(こぼく)    海を填(う)めんことを期し
  青山望断河     青山(せいざん)  河(か)を断(た)たんことを望む

  ⊂訳⊃
          楡関からの  夫の便りは途絶え
          漢の使節の  往来も絶えました
          胡笳の曲は  涙を誘い
          羌笛の音は  断腸の歌を奏でます
          白絹の腰は  束ねたように細くなり
          悲しい涙で  目はみにくく曇ります
          この恨みは  とどめようがなく
          私の若さも  永くはつづかないでしょう
          枯木の枝で  海を埋め立て
          山を崩して  黄河を堰き止めたいと思います


 ⊂ものがたり⊃ 其の七の詩では閨怨詩の手法を借り、夫と別れて暮らす妻の立場に立って思いを述べます。時代は漢、場所は長安に設定し、五聯全部が対句になっているのは注目すべき手法です。
 はじめの四句、「楡関」(陝西省楡林県の東)は戦国時代の関所で、長安の北の辺境にありました。夫は楡関に行ったまま音信が絶えたというのは、故国との繋がりを失くした自分を暗喩するものでしょう。「胡笳」も「羌笛」も西北異民族の笛で、夫はその曲を聞いて涙を流しているであろうと想像します。それは、庾信が胡族の北朝に捕らえられている悲しみを暗にいうものでしょう。
 つぎの四句は妻自身のようすを描き、将来を悲観する気持ちを述べます。「束素」は束ねた白い練り絹のことで、細い腰がいっそう細くなったといいます。「横波」は楚辞以来、女性の綺麗な眼差しの喩えで、美しい瞳も悲しみの涙で曇っていると詠います。「紅顔」は若々しさの喩えで、それも永くはつづかないであろうと嘆きます。
 最後の二句は気を取り直して自分を励ますもので、「枯木 海を填めんことを期し」は『山海経』にみえる精衛(せいえい)という鳥の伝説です。枯れ枝で海を埋め立て、山を崩して黄河を堰き止めるような努力をしても、私は夫に会うつもりだと結んで、帰国の志の固いことを述べるのです。

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