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ティェンタオの自由訳漢詩 1892

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 初唐32ー陳子昂
   晩次楽郷県          晩に楽郷県に次る

  故郷杳無際     故郷(こきょう)  杳(よう)として際(はて)無し
  日暮且孤征     日暮(にちぼ)   且(しばら)く孤征(こせい)す
  川原迷旧国     川原(せんげん) 旧国に迷い
  道路入辺城     道路(どうろ)   辺城(へんじょう)に入る
  野戍荒煙断     野戍(やじゅ)   荒煙(こうえん)断え
  深山古木平     深山(しんざん)  古木(こぼく)平らかなり
  如何此時恨     如何(いかん)せん  此の時の恨(うら)み
  噭噭夜猿鳴     噭噭(きょうきょう)として夜猿(やえん)鳴く

  ⊂訳⊃
          古里は限りなく遠く果てしない
          日暮れの道を  ひとりあてもなく旅をする
          楚の国の  川沿いの野で道に迷い
          片田舎の  鄙びた町にはいる
          砦に昇る  炊煙も途絶え
          深い山に  古木の林がつらなっている
          旅の悲しみを  どうしたらいいのだろうか
          闇で鳴く猿の  かん高い声


 ⊂ものがたり⊃ この詩の制作時期については二説あり、詩題中の「楽郷県」(らくきょうけん)についても二か所が比定されています。ここでは都から故郷へ帰るときの作と考え、「楽郷県」は湖南省松滋県説を取ります。
 契丹討伐軍に従軍したあとの聖歴元年(698)ころ、陳子昂は父親の老齢のために官を辞して故郷に帰ります。詩は全体として失意に満ちており、志を得ないで都を去る無念の思いがあったのでしょう。詩は分かりやすく、五言八句の詩ですが、当時流行の宮廷詩とは全く違っています。
 「孤征」の征は旅を意味しており、ひとり旅です。「川原」は川の両岸にひろがる平野のこと。「旧国」は故郷の意味に用いる場合が多いのですが、ここでは古い国、戦国楚と解されます。「辺城」は国境の城の意味に用いられることもありますが、ここでは片田舎の町でしょう。
 松滋県は長江が湖北平野に流れ出るところりにあり、西には三峡の山々が列なっています。江南に棲んでいる猿は手長猿の一種で、夜に鳴く叫び声は旅人の胸を引き裂くように哀しげであると言います。「如何せん 此の時の恨み」の一句には、都での立身出世を諦めて故郷に帰る陳子昂の無念の思いが込められているようです。
 故郷に帰った陳子昂は漢唐の間の歴史について著述をすすめていましたが、父親の死に遇います。射洪県令の段簡(だんかん)という者が陳家の財産に目をつけ、陳子昂を罪に陥れて獄に投じました。身代金を出したが赦されず、獄中で亡くなりました。享年四十二歳くらいです。
 

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