初唐26ー蘇味道
使嶺南聞崔馬二 嶺南に使いして崔・馬二御史の
御史並拝台郎 並に台郎に拝せらるるを聞く
振鷺纔飛日 振鷺(しんろ) 纔(はじ)めて飛ぶ日
遷鶯遠聴聞 遷鶯(せんおう) 遠く聴聞(ちょうぶん)す
明光共待漏 明光(めいこう) 共に漏(ろう)を待ち
清覧各披雲 清覧(せいらん) 各々(おのおの)雲を披(ひら)けり
喜得廊廟挙 廊廟(ろうびょう)の挙(きょ)を得たるを喜び
嗟為台閣分 台閣(たいかく)の分(ぶん)を為(な)すを嗟(なげ)く
故林懐柏悦 故林(こりん) 柏悦(はくえつ)を懐(おも)い
新握阻蘭薫 新握(しんあく) 蘭薫(らんくん)を阻(へだ)つ
冠去神羊影 冠(かん)は去る 神羊(しんよう)の影
車迎瑞雉群 車(くるま)は迎う 瑞雉(ずいち)の群(むれ)
独憐南斗外 独り憐(あわ)れむ 南斗(なんと)の外(そと)
空望列星文 空しく列星(れつせい)の文(ぶん)を望むを
⊂訳⊃
二羽の鷺が 連れだって飛ぶ日を
枝の鶯は 遠くの地で伝え聞く
明光殿で 拝謁の時を待つ
清いお姿は 雲間に青天を見るようだ
お二人が 特に選ばれて朝議に与かるのは嬉しいが
勤めを共に できないのが残念である
御史台の柏の林が茂るように 昇進され
新しい任務に就くお二人から 私は隔てられている
御史の印の 神羊の冠は消え
雉の群れが 車を出迎えることだろう
それを思えば 南斗の星のかなたで
列なる星座を 眺めるだけの身がいたわしい
⊂ものがたり⊃ 唐代に限らず中国王朝の官僚は常に左遷の憂き目にさらされています。蘇味道が「嶺南」(広州方面)に左遷されていたとき、「崔・馬二御史」(伝不明)が「台郎」(相台の郎中)に昇進しました。蘇味道はさっそく詩を贈って祝意を伝えるとともに、自分のことを忘れないでくれと縁故を求めます。題に「嶺南に使いして」とありますが、実際は左遷されたときと解されています。
「振鷺」は連れ立って飛ぶ鷺のこと。『詩経』に基づいており、崔・馬二御史の栄転を祝う言葉です。「遷鶯」も『詩経』に基づいており、鳥が互に鳴き交わすように人も良友を得て楽しむべきであるという意味です。「明光」は漢代の明光殿のこと。「漏を待ち」は水時計の時を待つことで、拝謁を待つ意味になります。
以下すべての句が、何らかの典故を踏まえており、対偶整斉、当時流行の詩の典型を示しています。博識で相手をうならせ、自分を売り込む詩です。
蘇味道はほどなく赦されて都にもどり、栄進して宰相の職にあること数年に及びましたが、新しいことは何ひとつせず、迎合に終始したと言われています。新龍元年の政変に遇って益州大都督長史に左遷されますが、赴任する前に亡くなりました。享年五十八歳です。
使嶺南聞崔馬二 嶺南に使いして崔・馬二御史の
御史並拝台郎 並に台郎に拝せらるるを聞く
振鷺纔飛日 振鷺(しんろ) 纔(はじ)めて飛ぶ日
遷鶯遠聴聞 遷鶯(せんおう) 遠く聴聞(ちょうぶん)す
明光共待漏 明光(めいこう) 共に漏(ろう)を待ち
清覧各披雲 清覧(せいらん) 各々(おのおの)雲を披(ひら)けり
喜得廊廟挙 廊廟(ろうびょう)の挙(きょ)を得たるを喜び
嗟為台閣分 台閣(たいかく)の分(ぶん)を為(な)すを嗟(なげ)く
故林懐柏悦 故林(こりん) 柏悦(はくえつ)を懐(おも)い
新握阻蘭薫 新握(しんあく) 蘭薫(らんくん)を阻(へだ)つ
冠去神羊影 冠(かん)は去る 神羊(しんよう)の影
車迎瑞雉群 車(くるま)は迎う 瑞雉(ずいち)の群(むれ)
独憐南斗外 独り憐(あわ)れむ 南斗(なんと)の外(そと)
空望列星文 空しく列星(れつせい)の文(ぶん)を望むを
⊂訳⊃
二羽の鷺が 連れだって飛ぶ日を
枝の鶯は 遠くの地で伝え聞く
明光殿で 拝謁の時を待つ
清いお姿は 雲間に青天を見るようだ
お二人が 特に選ばれて朝議に与かるのは嬉しいが
勤めを共に できないのが残念である
御史台の柏の林が茂るように 昇進され
新しい任務に就くお二人から 私は隔てられている
御史の印の 神羊の冠は消え
雉の群れが 車を出迎えることだろう
それを思えば 南斗の星のかなたで
列なる星座を 眺めるだけの身がいたわしい
⊂ものがたり⊃ 唐代に限らず中国王朝の官僚は常に左遷の憂き目にさらされています。蘇味道が「嶺南」(広州方面)に左遷されていたとき、「崔・馬二御史」(伝不明)が「台郎」(相台の郎中)に昇進しました。蘇味道はさっそく詩を贈って祝意を伝えるとともに、自分のことを忘れないでくれと縁故を求めます。題に「嶺南に使いして」とありますが、実際は左遷されたときと解されています。
「振鷺」は連れ立って飛ぶ鷺のこと。『詩経』に基づいており、崔・馬二御史の栄転を祝う言葉です。「遷鶯」も『詩経』に基づいており、鳥が互に鳴き交わすように人も良友を得て楽しむべきであるという意味です。「明光」は漢代の明光殿のこと。「漏を待ち」は水時計の時を待つことで、拝謁を待つ意味になります。
以下すべての句が、何らかの典故を踏まえており、対偶整斉、当時流行の詩の典型を示しています。博識で相手をうならせ、自分を売り込む詩です。
蘇味道はほどなく赦されて都にもどり、栄進して宰相の職にあること数年に及びましたが、新しいことは何ひとつせず、迎合に終始したと言われています。新龍元年の政変に遇って益州大都督長史に左遷されますが、赴任する前に亡くなりました。享年五十八歳です。