初唐24ー杜審言
和晋陵陸丞 晋陵の陸丞の
早春遊望 「早春遊望」に和す
独有宦遊人 独り宦遊(かんゆう)の人(ひと)有り
偏驚物候新 偏(ひと)えに驚く 物候(ぶっこう)の新たなるに
雲霞出海曙 雲霞(うんか) 海を出(い)でて曙(あ)け
梅柳渡江春 梅柳(ばいりゅう) 江(こう)を渡りて春なり
淑気催黄鳥 淑気(しゅくき) 黄鳥(こうちょう)を催(うなが)し
晴光転緑蘋 晴光(せいこう) 緑蘋(りょくひん)に転ず
忽聞歌古調 忽(たちま)ち古調(こちょう)を歌うを聞き
帰思欲沾巾 帰思(きし) 巾(きん)を沾(うるお)さんと欲す
⊂訳⊃
地方めぐりの者だけが
気候風物の変化に敏感だ
雲や霞が 海に湧いて夜明けとなり
梅の花 柳の新芽が 江を渡れば北も春
春の気配は 黄鳥の鳴く音を促し
春のひざしが 浮き草の上できらめく
このとき君の 古詩の声調を耳にして
望郷の思いに 布は涙で濡れてしまう
⊂ものがたり⊃ 詩題の「晋陵」(江蘇省武進県)は江南の地です。「陸丞」は陸という姓の県丞と解され、陸県丞が「早春遊望」という詩を贈ってきたので、和して返した詩です。都にいる杜審言が「宦遊」(地方勤務)中の陸某の詩に同感し、励ます意味も込めて作ったものと思われます。
はじめ二句で、中央勤めの者よりも地方勤めの人の方が感覚鋭敏だと相手の詩心を褒めます。中四句は江南の春の麗しさを詠うもので、「梅柳 江を渡りて春なり」と梅の開花や柳の芽吹きが長江を越えてはじめて北も春になると、江南の春の訪れの早いことを寿ぎます。結び二句の「古調」は古詩の声調という意味で、陸県丞の詩のことです。その望郷の思いに接して、自分の布も涙で一杯になりそうだと相手を慰めます。
杜審言も事に坐して吉州(江西省吉安市)に左遷されたことなどがありますが、のち武后に用いられて著作佐郎、膳部員外郎などを歴任しました。詩は中央にいたころの作品と思われます。
武后が失脚した神龍元年(705)の政変のとき、連座して峰州(ベトナム・ハノイ付近)に流されますが、赦されて都にもどり国子主簿になります。中宗復帰後の景龍二年(708)には修文館直学士を加えられ、まもなく亡くなりました。享年六十三歳。杜甫が誕生する四年前のことです。
和晋陵陸丞 晋陵の陸丞の
早春遊望 「早春遊望」に和す
独有宦遊人 独り宦遊(かんゆう)の人(ひと)有り
偏驚物候新 偏(ひと)えに驚く 物候(ぶっこう)の新たなるに
雲霞出海曙 雲霞(うんか) 海を出(い)でて曙(あ)け
梅柳渡江春 梅柳(ばいりゅう) 江(こう)を渡りて春なり
淑気催黄鳥 淑気(しゅくき) 黄鳥(こうちょう)を催(うなが)し
晴光転緑蘋 晴光(せいこう) 緑蘋(りょくひん)に転ず
忽聞歌古調 忽(たちま)ち古調(こちょう)を歌うを聞き
帰思欲沾巾 帰思(きし) 巾(きん)を沾(うるお)さんと欲す
⊂訳⊃
地方めぐりの者だけが
気候風物の変化に敏感だ
雲や霞が 海に湧いて夜明けとなり
梅の花 柳の新芽が 江を渡れば北も春
春の気配は 黄鳥の鳴く音を促し
春のひざしが 浮き草の上できらめく
このとき君の 古詩の声調を耳にして
望郷の思いに 布は涙で濡れてしまう
⊂ものがたり⊃ 詩題の「晋陵」(江蘇省武進県)は江南の地です。「陸丞」は陸という姓の県丞と解され、陸県丞が「早春遊望」という詩を贈ってきたので、和して返した詩です。都にいる杜審言が「宦遊」(地方勤務)中の陸某の詩に同感し、励ます意味も込めて作ったものと思われます。
はじめ二句で、中央勤めの者よりも地方勤めの人の方が感覚鋭敏だと相手の詩心を褒めます。中四句は江南の春の麗しさを詠うもので、「梅柳 江を渡りて春なり」と梅の開花や柳の芽吹きが長江を越えてはじめて北も春になると、江南の春の訪れの早いことを寿ぎます。結び二句の「古調」は古詩の声調という意味で、陸県丞の詩のことです。その望郷の思いに接して、自分の布も涙で一杯になりそうだと相手を慰めます。
杜審言も事に坐して吉州(江西省吉安市)に左遷されたことなどがありますが、のち武后に用いられて著作佐郎、膳部員外郎などを歴任しました。詩は中央にいたころの作品と思われます。
武后が失脚した神龍元年(705)の政変のとき、連座して峰州(ベトナム・ハノイ付近)に流されますが、赦されて都にもどり国子主簿になります。中宗復帰後の景龍二年(708)には修文館直学士を加えられ、まもなく亡くなりました。享年六十三歳。杜甫が誕生する四年前のことです。