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ティェンタオの自由訳漢詩 元ー掲溪斯

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 元8ー掲溪斯
   夏五月武昌舟中觸目      夏五月 武昌の舟中の觸目

  両髯背立鳴双櫓   両髯(りょうぜん)  背立(はいりつ)して双櫓(そうろ)を鳴らし
  短蓑開合滄江雨   短蓑(たんさ)    開合(かいごう)す  滄江(そうこう)の雨
  青山如龍入雲去   青山(せいざん)は龍の如く  雲に入って去り
  白髪何人並沙語   白髪(はくはつ)  何人(なんびと)ぞ  沙(すな)に並んで語る
  船頭放歌船尾和   船頭(せんとう)に放歌すれば  船尾(せんび)に和し
  篷上雨鳴篷下坐   篷上(ほうじょう)に雨鳴って    篷下(ほうか)に坐す
  推篷不省是何郷   篷(ほう)を推(お)すも  省(し)らず  是(こ)れ何(いず)れの郷(きょう)なるかを
  但見双双白鷗過   但(た)だ見る  双双(そうそう)  白鷗(はくおう)の過(よ)ぎるを

  ⊂訳⊃
          髯の男がふたりして  背中あわせに櫓を漕ぐ
          蒼い水面に雨は降り  短い蓑が揺れうごく
          青山は龍のように   雲のあいだを過ぎ
          岸辺に並び語りあう  白髪の翁は何者か
          舳先で歌うと       艫の男が和し
          雨の音を聞きながら  苫やのしたに坐している
          苫を押し上げても    どこだかわからない
          白い鷗がふたつがい  飛んでゆくのがみえるだけ


 ⊂ものがたり⊃ 掲溪斯(けいけいし:1275ー1344)は富州龍興(江西省豊城県)の人。二歳のときに都臨安が陥落しました。元の世に育ち、若くして文名を上げます。元に仕えて三たび翰林院に入り、侍講学士に至りました。順帝の至正四年(1344)になくなり、享年七十歳です。
 詩題の「觸目」(しょくもく)はみたままということで、舟で長江を航行中、「武昌」(湖北省武漢市武昌)のあたりの情景や舟行のようすを詠います。「夏五月」は陰暦五月、雨の季節です。はじめの二句は雨中で櫓を漕ぐ船頭のようす、つぎの二句は舟からみえる岸辺のようすです。
 つぎの二句は舳先と艫で船頭が歌をかけあい、作者は「篷下」(苫やの下)に坐して船頭の歌と雨の音を同時に聞いています。舟行の詳細を描いて劇の場面をみるようです。
 最後の二句では作者の感懐がしめされており、さきの見えない旅、人生の頼りなさを詠うのでしょう。「鷗」(白鷗)は世俗の羈絆から解き放たれた自由の象徴であり、束縛から離れて生きることを思うのでしょう。

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