南宋39ー翁巻
郷村四月 郷村の四月
緑遍山原白満川 緑は山原(さんげん)に遍(あまね)く 白は川に満つ
子規声裏雨如烟 子規声裏(しきせいり) 雨は烟(けむり)の如し
郷村四月閑人少 郷村(きょうそん)の四月 閑人(かんじん)少(まれ)なり
纔了蚕桑又插田 纔(わずか)に蚕桑(さんそう)を了(おわ)れば 又(ま)た田(でん)に插(さ)す
⊂訳⊃
山も野原もみどり色 川は白くかがやき
煙るような雨の中を 不如帰が鳴きしきる
四月の村に 暇な人間は稀である
蚕がすめば 田植えが待っている
⊂ものがたり⊃ 翁巻(おうけん)は生没年不詳。永嘉(浙江省温州市)の人といいます。孝宗の淳煕十年(1183)に郷薦(きょうせん)をうけ、寧宗の嘉定四年(1211)に徐照(じょしょう)が死んだとき存命でした。だから孝宗から寧宗の時代にかけて在世したことになります。生涯官職につかず、趙師秀をたよって筠州に旅したり、閩地(福建省)に遊んだりしました。晩年は妻子とともに永嘉の山中にこもりました。
詩は住んでいる村のようすを描きます。はじめ二句は自然のたたずまいです。山野の緑と川の白、「子規」(ほととぎす)の声と煙雨が描かれます。後半農民を思いやるのですが、政事批判をするわけではなく農家の忙しさを詠うだけです。
南宋40ー翁巻
即事言懐 即事 懐を言う
賦得拙疎性 賦(ふ)し得たり 拙疎(せっそ)の性(せい)
合令蹤跡賖 合(まさ)に蹤跡(しょうせき)をして 賖(とお)から令(し)むべし
相親惟野客 相親しむは 惟(た)だ野客(やかく)
所論是詩家 論ずる所は 是(こ)れ詩家
聴雨眠僧屋 雨を聴いて 僧屋(そうおく)に眠り
看雲立釣槎 雲を看ては 釣槎(ちょうさ)に立つ
秋来有新句 秋来(しゅうらい) 新句(しんく)有るも
多半為黄花 多半(たはん)は 黄花(こうか)と為(な)す
⊂訳⊃
詩に詠うのは 世渡りべたのことばかり
結局は 世間と遠い場所にいる
親しい友は 在野の人ばかり
論じ合うのは 詩人のこと
雨の音を聞きながら 寺で眠り
雲を見ながら 筏で釣りをする
秋になって 一句浮かんだと思ったら
おおかたは 菊の花のことだった
⊂ものがたり⊃ 詩題の「即事」(そくじ)は眼前の事柄を詠うことで、自己をかえりみて田園閑居の感懐をのべます。はじめの二句でまず自分の性(さが)を概観します。「拙疎」は世渡りの拙さと世事に疎いこと、「蹤跡」は足あと、行跡です。「賖」は遠い、遥かの意味で、俗世間からかけ離れていると反省、もしくは自任するのです。
中四句ではそんな自分の日常を語ります。親しい友人は在野の者ばかり、語り合うのは詩人のこと。雨の日は寺で居眠りをし、晴れた日には雲をみながら「釣槎」(筏での釣り)をします。結びの二句では、だから秋になって「新句」(気のきいた新しい句)が浮かんでも、多くは「黄花」(菊の花)のことばかり、世間とは関係ないと詠います。
郷村四月 郷村の四月
緑遍山原白満川 緑は山原(さんげん)に遍(あまね)く 白は川に満つ
子規声裏雨如烟 子規声裏(しきせいり) 雨は烟(けむり)の如し
郷村四月閑人少 郷村(きょうそん)の四月 閑人(かんじん)少(まれ)なり
纔了蚕桑又插田 纔(わずか)に蚕桑(さんそう)を了(おわ)れば 又(ま)た田(でん)に插(さ)す
⊂訳⊃
山も野原もみどり色 川は白くかがやき
煙るような雨の中を 不如帰が鳴きしきる
四月の村に 暇な人間は稀である
蚕がすめば 田植えが待っている
⊂ものがたり⊃ 翁巻(おうけん)は生没年不詳。永嘉(浙江省温州市)の人といいます。孝宗の淳煕十年(1183)に郷薦(きょうせん)をうけ、寧宗の嘉定四年(1211)に徐照(じょしょう)が死んだとき存命でした。だから孝宗から寧宗の時代にかけて在世したことになります。生涯官職につかず、趙師秀をたよって筠州に旅したり、閩地(福建省)に遊んだりしました。晩年は妻子とともに永嘉の山中にこもりました。
詩は住んでいる村のようすを描きます。はじめ二句は自然のたたずまいです。山野の緑と川の白、「子規」(ほととぎす)の声と煙雨が描かれます。後半農民を思いやるのですが、政事批判をするわけではなく農家の忙しさを詠うだけです。
南宋40ー翁巻
即事言懐 即事 懐を言う
賦得拙疎性 賦(ふ)し得たり 拙疎(せっそ)の性(せい)
合令蹤跡賖 合(まさ)に蹤跡(しょうせき)をして 賖(とお)から令(し)むべし
相親惟野客 相親しむは 惟(た)だ野客(やかく)
所論是詩家 論ずる所は 是(こ)れ詩家
聴雨眠僧屋 雨を聴いて 僧屋(そうおく)に眠り
看雲立釣槎 雲を看ては 釣槎(ちょうさ)に立つ
秋来有新句 秋来(しゅうらい) 新句(しんく)有るも
多半為黄花 多半(たはん)は 黄花(こうか)と為(な)す
⊂訳⊃
詩に詠うのは 世渡りべたのことばかり
結局は 世間と遠い場所にいる
親しい友は 在野の人ばかり
論じ合うのは 詩人のこと
雨の音を聞きながら 寺で眠り
雲を見ながら 筏で釣りをする
秋になって 一句浮かんだと思ったら
おおかたは 菊の花のことだった
⊂ものがたり⊃ 詩題の「即事」(そくじ)は眼前の事柄を詠うことで、自己をかえりみて田園閑居の感懐をのべます。はじめの二句でまず自分の性(さが)を概観します。「拙疎」は世渡りの拙さと世事に疎いこと、「蹤跡」は足あと、行跡です。「賖」は遠い、遥かの意味で、俗世間からかけ離れていると反省、もしくは自任するのです。
中四句ではそんな自分の日常を語ります。親しい友人は在野の者ばかり、語り合うのは詩人のこと。雨の日は寺で居眠りをし、晴れた日には雲をみながら「釣槎」(筏での釣り)をします。結びの二句では、だから秋になって「新句」(気のきいた新しい句)が浮かんでも、多くは「黄花」(菊の花)のことばかり、世間とは関係ないと詠います。