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ティェンタオの自由訳漢詩 2289

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 南宋42ー徐璣
    憑 高              高きに憑る

  憑高散幽策     高きに憑(よ)って  幽策(ゆうさく)を散ずれば
  緑草満春坡     緑草(りょくそう)  春坡(しゅんぱ)に満つ
  楚野無林木     楚野(そや)     林木(りんぼく)無く
  湘山似水波     湘山(しょうざん)  水波(すいは)に似たり
  客懐随地改     客懐(かくかい)  地に随って改まり
  詩思出門多     詩思(しし)  門を出(い)づれば多し
  尚有渓西寺     尚(な)お   渓西(けいせい)の寺
  斜陽未得過     斜陽(しゃよう)  未(いま)だ過ぎるを得(え)ざる有り

  ⊂訳⊃
          丘へ向かって  ひとり静かに散策すれば
          緑の春草が   池の堤に満ちている
          楚地の野には  視界をさえぎる林はなく
          湘水の山並は  波のうねりのように低くつらなる
          旅の思いは   歩くにしたがって移りかわり
          門を出れば   詩情が豊かに湧いてくる
          谷川の西の寺に  赤い夕陽が照り映えて
          日暮れにはまだ  余裕がありそうだ


 ⊂ものがたり⊃ 徐璣(じょき:1162ー1214)は晋江(江蘇省武進県)を本貫としますが、父の代に永嘉(浙江省温州市)に移り住みました。建安の主簿、龍渓の丞、武当の令、長泰(以上、福建省)の令、永州(湖南省永州市霊陵県)の掾と属僚を転々とし、寧宗の嘉定七年(1214)に亡くなります。享年五十三歳です。
 詩題の「高きに憑る」は冒頭の二語を取り、九月九日重陽の節句に小高い丘に登ることです。詩に「楚野」「湘山」「客懐」の語がありますので、永州在任のときの作と思われます。「幽策」の策は杖のことで、ひとり静かに散歩をすること。以下、小高い丘の小径をたどりながら展開する風景を描きます。
 「楚野」は楚地の野、水田が拡がっていて視界をさえぎる林はありません。「湘山」は湘水の流れにそった山なみのことで、波のうねりのように低くつらなっています。「客懐」は旅の思い。他郷から来たという思いは歩くにしたがって移りかわり、詩情は門をでたときから豊かに湧いています。丘のうえから眺めると、谷の西側の寺に夕陽が照り映え、かえりの時間にはまだ余裕があると、高処からの眺めを楽しむのです。

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