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ティェンタオの自由訳漢詩 2288

 南宋41ー徐照
   過鄱陽湖            鄱陽湖を過ぐ

  港中分十字     港中(こうちゅう)  十字を分(わか)ち
  蜀広亦通連     蜀広(しょくこう)も亦  通じ連(つら)なる
  四望疑無地     四望(しぼう)   地(ち)無きかと疑い
  孤舟若在天     孤舟(こしゅう)  天に在るが若(ごと)し
  龍尊収巨浪     龍(りゅう)  尊(たか)くして巨浪(きょろう)を収め
  鷗小没蒼煙     鷗(かもめ)  小にして蒼煙(そうえん)に没す
  未渡皆驚畏     未だ渡らざるとき  皆  驚畏(きょうい)するも
  吾今已帖然     吾(わ)れ今  已(すで)に帖然(ちょうぜん)

  ⊂訳⊃
          港のなかは  舟が縦横に行き来し
          西の蜀や   東の広州まで通じている
          四方を眺め  陸地はないのかと疑い
          舟はまるで  天空に浮かんでいるかのようだ
          龍神の力は  大波をしずめ
          小さな鷗も  灰色の靄のなかへ飛んでいく
          渡るまえは  みな畏れおののいていたが
          いまは私も  ゆったりと落ちついている


 ⊂ものがたり⊃ 徐照(じょしょう:?ー1211)は永嘉(浙江省温州市)の人。生涯官職につかず、湖南・江西を旅したり、永嘉の山中に廬を結んで住んだりしました。のちに街中の江心寺のわきに移り、寧宗の嘉定四年(1211)になくなります。
 詩題の「鄱陽湖」(はようこ)は江西北部の湖です。西側に廬山をひかえる景勝の地でした。徐照には旅での作が多く、詩作の指導や吟遊会のような催しをして暮らしていたようです。詩は二句ずつ時間の流れを追って展開し、わかりやすく書かれています。こんな風につくればいいのですよと、お手本を示すのでしょう。
 はじめの二句は湖岸の渡津のようすです。「港中 十字を分ち」は港の中を舟が縦横十文字にゆきかっていること。その航路は「蜀広」(西は蜀、東は広州)に通じていると展望をしめします。ついで舟を湖上に漕ぎ出します。湖はひろくて水平線をめぐらすだけです。まるで空中に浮かんでいるような気がします。
 なんだか不安な気もしますが、湖に棲む龍神は「尊」(偉大な力の持ち主)で、大波をしずめてくれるし、空飛ぶ鷗は小さいけれど、悠々と飛んで靄のなかに消えてゆきます。自分たちの舟も安心だというのです。
 結びは舟が向こう岸に着いたときの感懐で、渡る前はみな驚き恐れていたけれど、渡りおえたいまは「帖然」(ゆったりと落ちついているさま)としているなあ、とにっこり笑うのでしょう。 

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