南宋34ー辛棄疾
鷓鴣天 鷓鴣天
壮歳旌旗擁万夫 壮歳(そうさい) 旌旗(せいき) 万夫(ばんぷ)を擁(よう)し
錦襜突騎渡江初 錦襜(きんせん) 突騎(とっき) 渡江(とこう)の初(はじ)め
燕兵夜捉銀胡録 燕兵(えんぺい) 夜 銀胡録(ぎんころく)を捉(と)り
漢翦朝飛金僕姑 漢翦(かんせん) 朝 金僕姑(きんぼくこ)を飛ばす
※ 三句目の「捉」と「録」は外字になるので同音の字に変えてあります。
「捉」は女偏です。 「録」は革偏です。
追往事 往事(おうじ)を追い
歎今吾 今の吾(わ)れを歎(たん)ず
春風不染白髭鬚 春風(しゅんぷう)も染めえず 白髭鬚(はくししゅ)
卻将万字平戎策 却(かえ)って万字(ばんじ)の平戎(へいじゅう)の策を将(もっ)て
換得東家種樹書 換(か)え得たり 東家(とうか)の種樹(しゅじゅ)の書(しょ)
⊂訳⊃
若いころには 万余の兵を率いて旗を立て
甲冑の騎馬と 江を渡って朝廷に帰す
夜には 金の兵が矢袋をつかみ
朝には わが軍が翦を飛ばす
昔を思い出すたびに
今の自分が嘆かわしい
春風も 私の白髭鬚を染めてはくれぬ
かつては 一万字の対外策を献じたが
いまでは 近所の農家に畑仕事を教わる身だ
⊂ものがたり⊃ 詩題の「鷓鴣」(しゃこ)はキジ科の鳥で、ウズラに似てやや大きい鳥です。中国南部にひろく分布する種で、その鳴き声を聞くと江南にいることを実感するといいます。この詞には序に「客有り慨然として功名を談る。因って少年の時の事を追念して、戯れに作る」とありますから、晩年になってからの回顧作です。
上片は若いころに抗金の兵をおこし、長江を渡って南宋の朝廷に帰したことを語ります。「燕兵」は金の軍隊。「銀胡録」は銀色の矢袋。「漢翦」は宋を漢に喩え、その箭。「金僕姑」は箭の名前です。
下片では、昔を思うといまの自分が嘆かわしいと詠います。「春風」は万物を甦らせる風ですが、春風が吹いても白い口髭や顎鬚は黒くなりません。「万字の平戎の策」は「美芹十論」「九議」といった金軍侵攻の平定策を論じた自著をさし、それらの献策も採用にならず、「東家の種樹の書」つまり近所の農家から農作業を教わる身になったと嘆くのです。
鷓鴣天 鷓鴣天
壮歳旌旗擁万夫 壮歳(そうさい) 旌旗(せいき) 万夫(ばんぷ)を擁(よう)し
錦襜突騎渡江初 錦襜(きんせん) 突騎(とっき) 渡江(とこう)の初(はじ)め
燕兵夜捉銀胡録 燕兵(えんぺい) 夜 銀胡録(ぎんころく)を捉(と)り
漢翦朝飛金僕姑 漢翦(かんせん) 朝 金僕姑(きんぼくこ)を飛ばす
※ 三句目の「捉」と「録」は外字になるので同音の字に変えてあります。
「捉」は女偏です。 「録」は革偏です。
追往事 往事(おうじ)を追い
歎今吾 今の吾(わ)れを歎(たん)ず
春風不染白髭鬚 春風(しゅんぷう)も染めえず 白髭鬚(はくししゅ)
卻将万字平戎策 却(かえ)って万字(ばんじ)の平戎(へいじゅう)の策を将(もっ)て
換得東家種樹書 換(か)え得たり 東家(とうか)の種樹(しゅじゅ)の書(しょ)
⊂訳⊃
若いころには 万余の兵を率いて旗を立て
甲冑の騎馬と 江を渡って朝廷に帰す
夜には 金の兵が矢袋をつかみ
朝には わが軍が翦を飛ばす
昔を思い出すたびに
今の自分が嘆かわしい
春風も 私の白髭鬚を染めてはくれぬ
かつては 一万字の対外策を献じたが
いまでは 近所の農家に畑仕事を教わる身だ
⊂ものがたり⊃ 詩題の「鷓鴣」(しゃこ)はキジ科の鳥で、ウズラに似てやや大きい鳥です。中国南部にひろく分布する種で、その鳴き声を聞くと江南にいることを実感するといいます。この詞には序に「客有り慨然として功名を談る。因って少年の時の事を追念して、戯れに作る」とありますから、晩年になってからの回顧作です。
上片は若いころに抗金の兵をおこし、長江を渡って南宋の朝廷に帰したことを語ります。「燕兵」は金の軍隊。「銀胡録」は銀色の矢袋。「漢翦」は宋を漢に喩え、その箭。「金僕姑」は箭の名前です。
下片では、昔を思うといまの自分が嘆かわしいと詠います。「春風」は万物を甦らせる風ですが、春風が吹いても白い口髭や顎鬚は黒くなりません。「万字の平戎の策」は「美芹十論」「九議」といった金軍侵攻の平定策を論じた自著をさし、それらの献策も採用にならず、「東家の種樹の書」つまり近所の農家から農作業を教わる身になったと嘆くのです。