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ティェンタオの自由訳漢詩 2281

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 南宋34ー辛棄疾
     鷓鴣天                鷓鴣天

  壮歳旌旗擁万夫   壮歳(そうさい)  旌旗(せいき)  万夫(ばんぷ)を擁(よう)し
  錦襜突騎渡江初   錦襜(きんせん)  突騎(とっき)  渡江(とこう)の初(はじ)め
  燕兵夜捉銀胡録   燕兵(えんぺい)  夜  銀胡録(ぎんころく)を捉(と)り
  漢翦朝飛金僕姑   漢翦(かんせん)  朝  金僕姑(きんぼくこ)を飛ばす

      ※ 三句目の「捉」と「録」は外字になるので同音の字に変えてあります。
         「捉」は女偏です。 「録」は革偏です。

  追往事         往事(おうじ)を追い
  歎今吾         今の吾(わ)れを歎(たん)ず
  春風不染白髭鬚   春風(しゅんぷう)も染めえず  白髭鬚(はくししゅ)
  卻将万字平戎策   却(かえ)って万字(ばんじ)の平戎(へいじゅう)の策を将(もっ)て
  換得東家種樹書   換(か)え得たり  東家(とうか)の種樹(しゅじゅ)の書(しょ)

  ⊂訳⊃
          若いころには  万余の兵を率いて旗を立て
          甲冑の騎馬と  江を渡って朝廷に帰す
          夜には  金の兵が矢袋をつかみ
          朝には  わが軍が翦を飛ばす

          昔を思い出すたびに
          今の自分が嘆かわしい
          春風も   私の白髭鬚を染めてはくれぬ
          かつては  一万字の対外策を献じたが
          いまでは  近所の農家に畑仕事を教わる身だ


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「鷓鴣」(しゃこ)はキジ科の鳥で、ウズラに似てやや大きい鳥です。中国南部にひろく分布する種で、その鳴き声を聞くと江南にいることを実感するといいます。この詞には序に「客有り慨然として功名を談る。因って少年の時の事を追念して、戯れに作る」とありますから、晩年になってからの回顧作です。
 上片は若いころに抗金の兵をおこし、長江を渡って南宋の朝廷に帰したことを語ります。「燕兵」は金の軍隊。「銀胡録」は銀色の矢袋。「漢翦」は宋を漢に喩え、その箭。「金僕姑」は箭の名前です。
 下片では、昔を思うといまの自分が嘆かわしいと詠います。「春風」は万物を甦らせる風ですが、春風が吹いても白い口髭や顎鬚は黒くなりません。「万字の平戎の策」は「美芹十論」「九議」といった金軍侵攻の平定策を論じた自著をさし、それらの献策も採用にならず、「東家の種樹の書」つまり近所の農家から農作業を教わる身になったと嘆くのです。   

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