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ティェンタオの自由訳漢詩 2272

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 南宋25ー楊万里
     凍 蝿                凍 蝿

  隔窗偶見負暄蝿   窓を隔(へだ)てて偶々(たまたま)見る  暄(けん)を負(お)うの蝿(はえ)
  双脚挼挲弄暁晴   双脚(そうきゃく)挼挲(ださ)して暁晴(ぎょうせい)を弄(ろう)す
  日影欲移先会得   日影(にちえい)  移らんと欲すれば先(ま)ず会得(えとく)し
  忽然飛落別窗声   忽然(こつぜん)  飛落(ひらく)して別窗(べっそう)  声(こえ)あり

  ⊂訳⊃
          窓のむこうに  日ざしを浴びている蝿をみつけた

          両方の脚を擦り合わせ  冬の朝日を満喫する

          陽射しが移りかけると   いちはやく察知して

          いきなり飛んで別の窓  音を立ててとまる


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「凍蝿」(とうよう)は冬の蝿。蝿は夏の虫ですので、冬まで生き延びたしたたかな蝿という意味があります。淳煕五年(1178)、常州(江蘇省常州市)に左遷されていた五十二歳のときの作品で、特異な題材をとらえています。
 起句の「暄を負うの蝿」は暖かい日の光をあびている蝿のことです。それを窓のむこうに見つけました。よくみると両脚を「挼挲」(擦り合わせ)て朝の陽光を存分に味わっています。後半、やがて日ざしが移りかけると、日の動きをいちはやく察知して、さっと飛んで別の窓に「声」(音)を立ててとまります。
 詩はしぶとく生きる蝿に好感を抱いて描いているとも考えられますが、蝿は媚びへつらう人物の比喩として用いられる場合が多く、「日影」(日の光)は天子の威光や世の移り変わりの喩えになります。そこから、時世の変化を敏感に感じとって居場所をかえる世渡り上手の人間を揶揄している詩とも考えられます。
 左遷中の憤懣を吐きだした詩ともみられ、特異な観察と表現が評価されて代表作のひとつにあげられています。

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