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ティェンタオの自由訳漢詩 2252

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 南宋5ー陳与義
    江南春              江南の春

  雨後江上緑      雨後(うご)   江上(こうじょう)の緑
  客悲随眼新      客悲(かくひ)  眼に随って新たなり
  桃花十里影      桃花(とうか)  十里の影
  揺蕩一江春      揺蕩(ようとう)す  一江(いっこう)の春
  朝風逆船波浪悪   朝風(ちょうふう)  船に逆らって  波浪(はろう)悪(わる)し
  暮風送船無処泊   暮風(ぼふう)    船を送って   泊るに処(ところ)無し
  江南雖好不如帰   江南(こうなん)好しと雖(いえど)も 帰るに如(し)かず
  老薺遶墻人得肥   老薺(ろうせい)  墻(しょう)を遶(めぐ)って  人  肥(こ)ゆるを得ん

  ⊂訳⊃
          長江の岸辺に  雨はあがって緑色
          旅する身には  春の眺めも悲しみとなる
          十里にわたる  桃の花
          春の長江は   揺れ動いて静まらない
          朝風に船を出せば   逆波が舳先をさえぎり
          夕風に船を進めても  泊まるところがない
          江南は好しというが  故郷に勝るものはない
          垣の周りに薺が育ち  食べれば栄養たっぷりだ


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「江南の春」といえば、唐代では豊かで美しい季節、晴れやかさの象徴でした。それを逆手にとって帰郷への思いを詠います。この場合、帰郷とは金とたたかう政事路線を意味します。高宗が越州に居所をおいていた紹興元年(1131)のころ、陳与義は行在所の近くにきていました。紹興二年、臨安に召されて官に復帰し、詩は復帰後の作品です。
 五言四句、七言四句の変則な詩形で、二首の詩をくっつけたように見えますが、中四句は二組の対句になっています。はじめの二句、「雨後」は金軍が江南から撤退して苦難の数年が終わったことを喩えます。しかし、故郷を離れていることの悲しみはぬぐい去れません。
 中四句のはじめの対句は江南の春景色です。長江は波静かではなく「揺蕩」しています。金軍再侵入の不安はぬぐい去れません。つぎの対句は船の運行に託して政事の難しさを嘆くものです。抗戦派の陳与義は講和派の秦檜(しんかい)と対立していました。
 結びの二句では汴梁回復の希望を詠います。「江南好しと雖も」は白居易に「江南を懐う三首」(ティェンタオの自由訳漢詩925:2011.2.6のブログ参照)の詞があり、「江南好し」ではじまります。その句をもちいて和平論を否定し、「不如帰」(帰るに如かず)と詠うのです。

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