南宋3ー陳与義
登岳陽楼二首 其一 岳陽楼に登る 二首 其の一
洞庭之東江水西 洞庭(どうてい)の東 江水(こうすい)の西
簾旌不動夕陽遅 簾旌(れんせい) 動かず 夕陽(せきよう)遅し
登臨呉蜀横分地 登臨(とうりん)す 呉蜀 横分(おうぶん)の地
徏倚湖山欲暮時 徏倚(しい)す 湖山(こざん) 暮れんと欲するの時
万里来遊還望遠 万里(ばんり)来遊して 還(かえ)って遠くを望み
三年多難更憑危 三年難(なん)多くして 更に危(き)に憑(よ)る
白頭弔古風霜裏 白頭(はくとう) 古(いにしえ)を弔う 風霜(ふうそう)の裏(うち)
老木蒼波無限悲 老木(ろうぼく) 蒼波(そうは) 無限の悲しみ
⊂訳⊃
洞庭湖の東 長江の西
帳はそよともせず 沈む夕日はゆるやか
呉と蜀が わかれる土地をみおろして
今まさに 湖山の日暮れのときを歩きまわる
万里流浪の果て 遠く故郷をふりかえり
三年の苦労続き また高楼に登る
白髪頭を風雪にうたれながら 懐かしむのは昔のこと
枯れようとする古木 蒼い波 無限の悲しみ
⊂ものがたり⊃ 詩題の「岳陽楼」(がくようろう)は岳州巴陵(湖南省岳陽市)にある城楼で、西に洞庭湖を臨む湖口に位置しています。詩中に「三年多難」とありますので、金軍の侵攻をのがれて南に放浪して三年目、三十九歳のときの作品です。岳州にたどりつき有名な詩跡である岳陽楼にのぼりました。
はじめの二句で自分のいる場所を示します。風がなく夕日もゆっくりと動いています。中四句の対句。はじめの対句は首聯の二句を受けて「呉蜀 横分の地」といいます。杜甫は「岳陽楼に登る」の詩(ティェンタオの自由訳漢詩718:2010.7.9のブログ参照)で「呉楚は東南に坼け」といっていますので、楚を蜀にかえて詠っています。「徏倚」はさまようこと、落ち着きのない気持ちで歩きまわるのでしょう。
つぎの対句ではこれまでを回顧します。都を出て三年間、苦労を重ね、いままた「危」にもたれています。「危」は高く険しいという意味で、高い場所をさすと同時に危難の状況にいることをしめします。尾聯は結びの感懐で、白髪頭を「風霜」にうたれながら昔を懐かしむのです。
登岳陽楼二首 其一 岳陽楼に登る 二首 其の一
洞庭之東江水西 洞庭(どうてい)の東 江水(こうすい)の西
簾旌不動夕陽遅 簾旌(れんせい) 動かず 夕陽(せきよう)遅し
登臨呉蜀横分地 登臨(とうりん)す 呉蜀 横分(おうぶん)の地
徏倚湖山欲暮時 徏倚(しい)す 湖山(こざん) 暮れんと欲するの時
万里来遊還望遠 万里(ばんり)来遊して 還(かえ)って遠くを望み
三年多難更憑危 三年難(なん)多くして 更に危(き)に憑(よ)る
白頭弔古風霜裏 白頭(はくとう) 古(いにしえ)を弔う 風霜(ふうそう)の裏(うち)
老木蒼波無限悲 老木(ろうぼく) 蒼波(そうは) 無限の悲しみ
⊂訳⊃
洞庭湖の東 長江の西
帳はそよともせず 沈む夕日はゆるやか
呉と蜀が わかれる土地をみおろして
今まさに 湖山の日暮れのときを歩きまわる
万里流浪の果て 遠く故郷をふりかえり
三年の苦労続き また高楼に登る
白髪頭を風雪にうたれながら 懐かしむのは昔のこと
枯れようとする古木 蒼い波 無限の悲しみ
⊂ものがたり⊃ 詩題の「岳陽楼」(がくようろう)は岳州巴陵(湖南省岳陽市)にある城楼で、西に洞庭湖を臨む湖口に位置しています。詩中に「三年多難」とありますので、金軍の侵攻をのがれて南に放浪して三年目、三十九歳のときの作品です。岳州にたどりつき有名な詩跡である岳陽楼にのぼりました。
はじめの二句で自分のいる場所を示します。風がなく夕日もゆっくりと動いています。中四句の対句。はじめの対句は首聯の二句を受けて「呉蜀 横分の地」といいます。杜甫は「岳陽楼に登る」の詩(ティェンタオの自由訳漢詩718:2010.7.9のブログ参照)で「呉楚は東南に坼け」といっていますので、楚を蜀にかえて詠っています。「徏倚」はさまようこと、落ち着きのない気持ちで歩きまわるのでしょう。
つぎの対句ではこれまでを回顧します。都を出て三年間、苦労を重ね、いままた「危」にもたれています。「危」は高く険しいという意味で、高い場所をさすと同時に危難の状況にいることをしめします。尾聯は結びの感懐で、白髪頭を「風霜」にうたれながら昔を懐かしむのです。