北宋61ー黄庭堅
六月十七日昼寝 六月十七日 昼寝ぬ
紅塵席帽烏靴裏 紅塵(こうじん) 席帽(せきぼう) 烏靴(うか)の裏(うち)
想見滄州白鳥双 想見(そうけん)す 滄州(そうしゅう) 白鳥の双(そう)
馬齕枯萁喧午枕 馬は枯萁(こき)を齕(か)みて午枕(ごちん)に喧(かまびす)しく
夢成風雨浪翻江 夢に風雨と成(な)りて 浪 江(こう)を翻(ひるがえ)す
⊂訳⊃
この世の塵や芥のなか 科挙に受かって官につくが
滄州の浜辺で暮らす 気ままな生活に憧れていた
馬の豆がらを噛む音が 昼寝の枕もとでさわがしく
やがて風雨の音となり 荒波が川のおもてをひるがえす
⊂ものがたり⊃ 詩題の「六月十七日」は不明ですが、左遷された日かもしれません。晩夏のある日、昼寝をして目覚めたときの詩を装っていますが、党争に巻きこまれて貶謫されたあとの作品とみられます。はじめの二句は自分の半生を嘆くものです。
「紅塵」は俗世間の塵で、煩わしいこの世のこと。「席帽」は藤で編んだ笠帽子で、受験生を意味します。「烏靴」は黒い革靴で、役人になったことです。「滄州」は仙人の棲む世界、「白鳥」は鷗のことで、捉われない人格、自由人の喩えです。塵芥のこの世で試験を受けて役人になったが、仙人の棲む世界で自由に生きる生活に憧れていたと詠います。
後半二句は昼寝の思い出を装っていますが、ぼんやりしているあいだに党争に巻きこまれたことを比喩的に描きます。厩の近くで寝ていたら馬が「枯萁」(まぐさ)を噛む音が騒がしかった。その音が夢のなかで「風雨」(あらし)の音になり、浪が川面をひるがえす光景になりました。「風雨」は古来、苦しい境遇の喩えとして用いられ貶謫の苦難を訴えるものでしょう。
そうした時期の詩であるにもかかわらず、この場合も同時代の詩に「小雨 愔愔(いんいん)として人寝ねず 臥して聴く 羸馬(るいば)の残芻(ざんすう)を齕むを」とあるのを用いてひと捻りしています。
六月十七日昼寝 六月十七日 昼寝ぬ
紅塵席帽烏靴裏 紅塵(こうじん) 席帽(せきぼう) 烏靴(うか)の裏(うち)
想見滄州白鳥双 想見(そうけん)す 滄州(そうしゅう) 白鳥の双(そう)
馬齕枯萁喧午枕 馬は枯萁(こき)を齕(か)みて午枕(ごちん)に喧(かまびす)しく
夢成風雨浪翻江 夢に風雨と成(な)りて 浪 江(こう)を翻(ひるがえ)す
⊂訳⊃
この世の塵や芥のなか 科挙に受かって官につくが
滄州の浜辺で暮らす 気ままな生活に憧れていた
馬の豆がらを噛む音が 昼寝の枕もとでさわがしく
やがて風雨の音となり 荒波が川のおもてをひるがえす
⊂ものがたり⊃ 詩題の「六月十七日」は不明ですが、左遷された日かもしれません。晩夏のある日、昼寝をして目覚めたときの詩を装っていますが、党争に巻きこまれて貶謫されたあとの作品とみられます。はじめの二句は自分の半生を嘆くものです。
「紅塵」は俗世間の塵で、煩わしいこの世のこと。「席帽」は藤で編んだ笠帽子で、受験生を意味します。「烏靴」は黒い革靴で、役人になったことです。「滄州」は仙人の棲む世界、「白鳥」は鷗のことで、捉われない人格、自由人の喩えです。塵芥のこの世で試験を受けて役人になったが、仙人の棲む世界で自由に生きる生活に憧れていたと詠います。
後半二句は昼寝の思い出を装っていますが、ぼんやりしているあいだに党争に巻きこまれたことを比喩的に描きます。厩の近くで寝ていたら馬が「枯萁」(まぐさ)を噛む音が騒がしかった。その音が夢のなかで「風雨」(あらし)の音になり、浪が川面をひるがえす光景になりました。「風雨」は古来、苦しい境遇の喩えとして用いられ貶謫の苦難を訴えるものでしょう。
そうした時期の詩であるにもかかわらず、この場合も同時代の詩に「小雨 愔愔(いんいん)として人寝ねず 臥して聴く 羸馬(るいば)の残芻(ざんすう)を齕むを」とあるのを用いてひと捻りしています。