南北朝39ー庾信
詠画屏風詩二十五首 画屏風を詠ずるの詩 二十五首
其四 其の四
昨夜鳥声春 昨夜(さくや) 鳥声(ちょうせい)春なり
驚鳴動四隣 驚鳴(けいめい) 四隣(しりん)を動かす
今朝梅樹下 今朝(こんちょう) 梅樹(ばいじゅ)の下
定有詠花人 定(さだ)めて花を詠ずるの人有らん
流星浮酒泛 流星(りゅうせい) 酒泛(しゅはん)に浮かび
粟瑱遶杯唇 粟瑱(ぞくてん) 杯唇(はいしん)を遶(めぐ)る
何労一片雨 何ぞ労せん 一片の雨
喚作陽台神 喚(よ)んで陽台(ようだい)の神と作(な)すを
⊂訳⊃
昨夜の頃から 鳥の声も春めいて
高い鳴き声が あたりに響く
今朝になれば 梅の木の下に
花詠む人が 大勢やってくるだろう
きらめく瞳は 杯の酒に映って浮かび
眉の飾りや耳飾りが 杯のまわりを囲む
こんな美女がいるならば 一面の雨に呼びかけて
巫山の神女に お出ましを願う必要はない
⊂ものがたり⊃ 庾信(ゆしん)は宮廷詩人として有名な庾肩吾(ゆけんご)の子として、梁の武帝の天監十二年に生まれました。成人して詩人として活躍するようになります。
詩は屏風に描かれた絵を題材に詠う題画詩で、宴会などに招かれたとき、求められて作る場合が多かったようです。題画詩を二十五首も残しているというのは、庾信が当時の貴族や高官らの社交界で詩の名手として持て囃されていたことを示しています。
この詩の絵柄としては春の日、屋敷の窓辺で女性が杯を手に庭を眺めています。庭の梅の木に花が咲き、枝に小鳥がとまっています。その絵に連想を加えた詩を賦し、いかに情感を盛り上げるかが詩人の腕のみせどころでした。
詩は二句ずつ四段にわかれ、はじめの二句は絵に描くことのできない鳥の声を想像で加えます。つぎの二句も想像で、大勢の客が花見にやって来るであろうと梅の木を褒めます。宴会自体が花見の宴であったかもしれません。
三番目の二句は対句になっていて、「流星」は瞳の喩え、その瞳が手にした杯に映っていると細かく想像します。「粟瑱」は眉飾りと耳飾りのことで、それが杯のまわりを囲むと詠います。つまり、女性が杯に唇を寄せる動作を加えるのでしょう。
そして結びの二句では、巫山の神女伝説を用いて、絵の中の女性のような美女がいるならば、巫山の神女も不要であると褒めあげます。当時の庾信はそのころ流行の甘美な宮廷詩に勝れた才能を示していました。
詠画屏風詩二十五首 画屏風を詠ずるの詩 二十五首
其四 其の四
昨夜鳥声春 昨夜(さくや) 鳥声(ちょうせい)春なり
驚鳴動四隣 驚鳴(けいめい) 四隣(しりん)を動かす
今朝梅樹下 今朝(こんちょう) 梅樹(ばいじゅ)の下
定有詠花人 定(さだ)めて花を詠ずるの人有らん
流星浮酒泛 流星(りゅうせい) 酒泛(しゅはん)に浮かび
粟瑱遶杯唇 粟瑱(ぞくてん) 杯唇(はいしん)を遶(めぐ)る
何労一片雨 何ぞ労せん 一片の雨
喚作陽台神 喚(よ)んで陽台(ようだい)の神と作(な)すを
⊂訳⊃
昨夜の頃から 鳥の声も春めいて
高い鳴き声が あたりに響く
今朝になれば 梅の木の下に
花詠む人が 大勢やってくるだろう
きらめく瞳は 杯の酒に映って浮かび
眉の飾りや耳飾りが 杯のまわりを囲む
こんな美女がいるならば 一面の雨に呼びかけて
巫山の神女に お出ましを願う必要はない
⊂ものがたり⊃ 庾信(ゆしん)は宮廷詩人として有名な庾肩吾(ゆけんご)の子として、梁の武帝の天監十二年に生まれました。成人して詩人として活躍するようになります。
詩は屏風に描かれた絵を題材に詠う題画詩で、宴会などに招かれたとき、求められて作る場合が多かったようです。題画詩を二十五首も残しているというのは、庾信が当時の貴族や高官らの社交界で詩の名手として持て囃されていたことを示しています。
この詩の絵柄としては春の日、屋敷の窓辺で女性が杯を手に庭を眺めています。庭の梅の木に花が咲き、枝に小鳥がとまっています。その絵に連想を加えた詩を賦し、いかに情感を盛り上げるかが詩人の腕のみせどころでした。
詩は二句ずつ四段にわかれ、はじめの二句は絵に描くことのできない鳥の声を想像で加えます。つぎの二句も想像で、大勢の客が花見にやって来るであろうと梅の木を褒めます。宴会自体が花見の宴であったかもしれません。
三番目の二句は対句になっていて、「流星」は瞳の喩え、その瞳が手にした杯に映っていると細かく想像します。「粟瑱」は眉飾りと耳飾りのことで、それが杯のまわりを囲むと詠います。つまり、女性が杯に唇を寄せる動作を加えるのでしょう。
そして結びの二句では、巫山の神女伝説を用いて、絵の中の女性のような美女がいるならば、巫山の神女も不要であると褒めあげます。当時の庾信はそのころ流行の甘美な宮廷詩に勝れた才能を示していました。