北宋21ー柳永
望海潮 望海潮 (上片十一句)
東南形勝 東南の形勝(けいしょう)
三呉都会 三呉(さんご)の都会
銭塘自古繁華 銭塘(せんとう)は 古(いにしえ)より繁華(はんか)なり
煙柳画橋 煙柳(えんりゅう) 画橋(がきょう)
風簾翠幕 風簾(ふうれん) 翠幕(すいばく)
参差十万人家 参差(さんし)たり 十万の人家(じんか)
雲樹繞堤沙 雲樹(うんじゅ)は堤沙(ていさ)を繞(めぐ)り
怒涛捲霜雪 怒涛(どとう)は霜雪(そうせつ)を捲(ま)いて
天塹無涯 天塹(てんざん) 涯(はて)無し
市列珠璣 市(し)には珠璣(しゅき)を列(つら)ね
戸盈羅綺競豪奢 戸(こ)には羅綺(きら)盈(み)ちて豪奢(ごうしゃ)を競う
⊂訳⊃
中華の東南 形勝の地
それは呉の国の大都会
銭塘は昔から 賑やかな街である
かすむ柳 色ぬりの橋
揺れる簾 緑の垂れ幕
高く低く 十万戸の家がつらなる
雲つく木は 砂の堤をめぐり
逆巻く波は しぶきを巻きあげ
どこまでもつづく天然の堀のようだ
市場には さまざまな宝石がならび
絹織物は 店に満ちて豪華を競い合う
⊂ものがたり⊃ 詞題の「望海潮」(ぼうかいちょう)は海の潮を望む意味ですが、これは元歌の題であり、曲を示します。内容は杭州の街を褒めるもので、題名とは無関係です。柳永が杭州にいたとき、知州事の着任の祝いの席でつくった詞と思われ、上片のはじめ三句は導入部です。大見得を切るように場所を示します。
「銭塘」は杭州の州治のある県で、杭州の別名です。以下、杭州の街の繁華なさまが描かれますが、「煙柳」以下の三句は五つの景物が歯切れよく示され、柳永得意の手法です。つぎの三句のはじめ二句は五言の対句になっており、「雲樹」は雲に届くほど高い木、「堤沙」は砂で築かれた銭塘江の堤防でしょう。
「怒涛」は杭州湾の奥まで押し寄せる大海嘯(だいかいしょう)のことで、波が最大になる旧暦八月十五日、仲秋の日の海嘯は有名です。そして、海に面し河口に位置する杭州を「天塹涯無し」と詠い、天然の要害に囲まれた地であると褒めます。結びの二句では杭州の市場の繁栄、豊かなさまを歌って上片をとじます。
望海潮 望海潮 (上片十一句)
東南形勝 東南の形勝(けいしょう)
三呉都会 三呉(さんご)の都会
銭塘自古繁華 銭塘(せんとう)は 古(いにしえ)より繁華(はんか)なり
煙柳画橋 煙柳(えんりゅう) 画橋(がきょう)
風簾翠幕 風簾(ふうれん) 翠幕(すいばく)
参差十万人家 参差(さんし)たり 十万の人家(じんか)
雲樹繞堤沙 雲樹(うんじゅ)は堤沙(ていさ)を繞(めぐ)り
怒涛捲霜雪 怒涛(どとう)は霜雪(そうせつ)を捲(ま)いて
天塹無涯 天塹(てんざん) 涯(はて)無し
市列珠璣 市(し)には珠璣(しゅき)を列(つら)ね
戸盈羅綺競豪奢 戸(こ)には羅綺(きら)盈(み)ちて豪奢(ごうしゃ)を競う
⊂訳⊃
中華の東南 形勝の地
それは呉の国の大都会
銭塘は昔から 賑やかな街である
かすむ柳 色ぬりの橋
揺れる簾 緑の垂れ幕
高く低く 十万戸の家がつらなる
雲つく木は 砂の堤をめぐり
逆巻く波は しぶきを巻きあげ
どこまでもつづく天然の堀のようだ
市場には さまざまな宝石がならび
絹織物は 店に満ちて豪華を競い合う
⊂ものがたり⊃ 詞題の「望海潮」(ぼうかいちょう)は海の潮を望む意味ですが、これは元歌の題であり、曲を示します。内容は杭州の街を褒めるもので、題名とは無関係です。柳永が杭州にいたとき、知州事の着任の祝いの席でつくった詞と思われ、上片のはじめ三句は導入部です。大見得を切るように場所を示します。
「銭塘」は杭州の州治のある県で、杭州の別名です。以下、杭州の街の繁華なさまが描かれますが、「煙柳」以下の三句は五つの景物が歯切れよく示され、柳永得意の手法です。つぎの三句のはじめ二句は五言の対句になっており、「雲樹」は雲に届くほど高い木、「堤沙」は砂で築かれた銭塘江の堤防でしょう。
「怒涛」は杭州湾の奥まで押し寄せる大海嘯(だいかいしょう)のことで、波が最大になる旧暦八月十五日、仲秋の日の海嘯は有名です。そして、海に面し河口に位置する杭州を「天塹涯無し」と詠い、天然の要害に囲まれた地であると褒めます。結びの二句では杭州の市場の繁栄、豊かなさまを歌って上片をとじます。