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ティェンタオの自由訳漢詩 2192

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北宋17ー銭惟演
    荷 花              荷 花

  水闊雨蕭蕭     水闊(ひろ)くして  雨蕭蕭(あめしょうしょう)
  風微影自揺     風微(び)にして  影自(おのず)から揺らめく
  徐娘羞半面     徐娘(じょじょう)  半面を羞(は)じ
  楚女妬纎腰     楚女(そじょ)    纎腰(せんよう)を妬(ねた)む
  別恨抛深浦     別恨(べつこん)  深浦(しんぽ)に抛(なげう)ち
  遺香逐画橈     遺香(いこう)    画橈(がとう)を逐(お)う
  華燈連霧夕     華燈(かとう)    霧夕(むせき)に連なり
  鈿合映霞朝     鈿合(でんごう)   霞朝(かちょう)に映ず
  涙有鮫人見     涙は  鮫人(こうじん)の見る有り
  魂須宋玉招     魂は  宋玉(そうぎょく)の招くを須(ま)つ
  凌波終末渡     凌波(りょうは)   終(つい)に末(いま)だ渡らず
  疑待鵲為橋     疑うらくは鵲(かささぎ)の橋を為(つく)るを待つかと

  ⊂訳⊃
          水は静かに広がり  雨は寂しく降っている
          そよ風が吹くと    花はおのずから揺れ動く
          その美しさは  徐娘がわが身を恥じるほどで
          楚の娘たちも  茎の細さをねたむであろう
          別れの怨みを  流れの深い淵に投げこんでも
          のこり香は    いつまでも船につきまとう
          夕暮れの霞のなかでも  明るい灯火のようで
          朝靄のなかで浮き出る  螺鈿の小箱のようだ
          葉に置く露は  人魚の涙のようで
          こころ根は   宋玉をも呼びよせるほどだ
          池波を受けて  じっと立っている
          それはまるで  鵲が橋をつくるのを待っているかのようだ


 ⊂ものがたり⊃ 銭惟演(せんいえん:977ー1034)は杭州銭塘(浙江省杭州市)の人。最後の呉越王銭俶(せんしゅく)の六男として太平興国二年(977)にうまれました。その翌年、銭俶は領土を宋に献じて淮南国王に封じられます。
 銭惟演は若くして団練副使・右屯衛将軍に任じられますが、真宗の咸平三年(1000)に『咸平聖政録』三巻を献じて真宗に認められ、太僕少卿になります。以後文人として頭角を現し、西京河南府(河南省洛陽市)の知府事のときの幕下に、のちに詩人として有名になる梅堯臣と欧陽修がいました。累進して知制誥(ちせいこう)になり、真宗の天禧二年(1018)には翰林学士になります。
 仁宗の初期に垂簾聴政を行った劉太后の姻戚であったことから、枢密使・同平章事の要職につき、明道二年(1033)、太后が亡くなると弾劾を受けて随州に貶謫され、その翌年に配地で亡くなりました。享年五十八歳です。
 詩題の「荷花」(かか)は蓮の花。詠物詩に属しますが、蓮の花に託して女心の深奥を諷諭します。女性の表面の美しさだけを見ていると、とんでもない目にあうと警告するのです。はじめの二句は雨のなか濡れて立つ蓮の花の描写で、見た目はいかにも弱々しく見えます。以下はそこから連想する女性の真の姿で、まず二人の執念深い女性の故事を出します。
 「徐娘」は南朝時代の后。容貌が悪くて天子に愛されないのでわざとふざけた化粧をしたり、愛人をつくったりしました。「楚女」は戦国楚の娘たちで、当時は痩せた女性が好まれたので皆が痩せようとして栄養不良で死んでしまったと我の強さを指摘します。
 つぎの対句は女性の執念深さを蓮の花に喩えます。「深浦」(入江の深い淵)に投げ棄てても、花の残り香がいつまでも船を追ってくるといいます。三番目の対句はどんな環境にあっても自己を主張する自己顕示欲の強さ、自分本位であることを指摘します。
 四番目の対句は女性の涙です。「鮫人」は人魚のことで、「鮫人の見る有り」というのは蓮の花に置く露が人魚の落とした涙のように思われるという意味です。「魂」は蓮の花の魂のことで、楚の有名な詩人「宋玉」をも惹きつけるであろうと涙の効用を詠います。
 結びの二句は蓮の花の建っている姿で、「鵲の橋を為るを待つかと」思われると詠います。七夕伝説を援用し、彦星と織姫の逢瀬をとりもった鵲が、自分のために橋をつくってくれるのを待っているかのように立っていると詠うのです。 

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