北宋4ー李
浪淘沙令 浪淘沙令
簾外雨潺潺 簾外(れんがい) 雨 潺潺(せんせん)
春意闌珊 春意(しゅんい) 闌珊(らんさん)たり
羅衾不耐五更寒 羅衾(らきん)は耐えず 五更(ごこう)の寒きに
夢裡不知身是客 夢裡(むり)に 身は是(こ)れ客(かく)なるを知らずして
一晌食歓 一晌(いっしょう) 歓(かん)を食(むさぼ)る
独自莫凭闌 独り自(みずか)ら闌(おばしま)に凭(よ)る莫(なか)れ
無限江山 限り無き江山(こうざん)
別時容易見時難 別るる時は容易にして見(まみ)ゆる時は難(かた)し
流水落花帰去也 流水(りゅうすい) 落花(らっか) 帰り去(ゆ)くなり
天上人間 天上(てんじょう) 人間(じんかん)
⊂訳⊃
簾の外で 雨はしとしとと降りつづけ
春の趣は やがて尽き果て消えていく
薄絹の布団は 明け方の寒さに耐えず
夢の中で 旅にある身を忘れ
ひと時の 楽しい思いに耽っていた
欄干に ひとりで身を寄せるのはよそう
どこまでもつづく 山と川
人生に別れは多く 出会いのときは少ない
流れる水よ 散る花びらよ どこへ行ってしまったのか
天上界と人間界 その大きなへだたり
⊂ものがたり⊃ 詩題の「浪淘沙」(ろうとうさ)は川の波が砂を選り分けるという意味の民謡で、中唐のころから好まれている曲(令)です。その曲を用いて幽閉生活の嘆きを詠います。
上片は雨の降る晩春の夜、「五更」(午前四時ごろ)の寒さにめざめ、夢のなかでかつての楽しかったころを思い出したのですが、それも「一晌」(短い時間)のことであったと嘆きます。下片は自分自身へ言い聞かせているもので、人生への諦め、救いのない無常感が詠われます。結びの「天上 人間」は天上界と人間界のへだたりの大きさをさしており、もうすべては終わりだと諦めるのです。
この詞は李が宋都汴京に抑留されていたときの最後の作品とされ、宋代はじめにつくられました。しかし、李は五代十国末、後唐の皇帝であり、厳密には宋の詩人とは言えないでしょう。五代十国はおおむね武人の支配する国であり、詩文は衰退していました。そのなかで、後唐の三代目皇帝李だけが後世に認められる詞を残しました。
浪淘沙令 浪淘沙令
簾外雨潺潺 簾外(れんがい) 雨 潺潺(せんせん)
春意闌珊 春意(しゅんい) 闌珊(らんさん)たり
羅衾不耐五更寒 羅衾(らきん)は耐えず 五更(ごこう)の寒きに
夢裡不知身是客 夢裡(むり)に 身は是(こ)れ客(かく)なるを知らずして
一晌食歓 一晌(いっしょう) 歓(かん)を食(むさぼ)る
独自莫凭闌 独り自(みずか)ら闌(おばしま)に凭(よ)る莫(なか)れ
無限江山 限り無き江山(こうざん)
別時容易見時難 別るる時は容易にして見(まみ)ゆる時は難(かた)し
流水落花帰去也 流水(りゅうすい) 落花(らっか) 帰り去(ゆ)くなり
天上人間 天上(てんじょう) 人間(じんかん)
⊂訳⊃
簾の外で 雨はしとしとと降りつづけ
春の趣は やがて尽き果て消えていく
薄絹の布団は 明け方の寒さに耐えず
夢の中で 旅にある身を忘れ
ひと時の 楽しい思いに耽っていた
欄干に ひとりで身を寄せるのはよそう
どこまでもつづく 山と川
人生に別れは多く 出会いのときは少ない
流れる水よ 散る花びらよ どこへ行ってしまったのか
天上界と人間界 その大きなへだたり
⊂ものがたり⊃ 詩題の「浪淘沙」(ろうとうさ)は川の波が砂を選り分けるという意味の民謡で、中唐のころから好まれている曲(令)です。その曲を用いて幽閉生活の嘆きを詠います。
上片は雨の降る晩春の夜、「五更」(午前四時ごろ)の寒さにめざめ、夢のなかでかつての楽しかったころを思い出したのですが、それも「一晌」(短い時間)のことであったと嘆きます。下片は自分自身へ言い聞かせているもので、人生への諦め、救いのない無常感が詠われます。結びの「天上 人間」は天上界と人間界のへだたりの大きさをさしており、もうすべては終わりだと諦めるのです。
この詞は李が宋都汴京に抑留されていたときの最後の作品とされ、宋代はじめにつくられました。しかし、李は五代十国末、後唐の皇帝であり、厳密には宋の詩人とは言えないでしょう。五代十国はおおむね武人の支配する国であり、詩文は衰退していました。そのなかで、後唐の三代目皇帝李だけが後世に認められる詞を残しました。