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ティェンタオの自由訳漢詩 2142

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 晩唐13ー于武陵
    勧酒              酒を勧む

  勧君金屈巵     君に勧(すす)む  金屈巵(きんくっし)
  満酌不須辞     満酌(まんしゃく)  辞するを須(もち)いず
  花発多風雨     花(はな)発(ひら)けば  風雨(ふうう)多く
  人生足別離     人(ひと)生まれては   別離(べつり)足(おお)し

  ⊂訳⊃
          どうだ  この金杯(さかずき)になみなみと

          つぐが  遠慮はいらないぞ

          花に風雨(あらし)があるように

          人に別離(わかれ)はつきものだ


 ⊂ものがたり⊃ 于武陵(うぶりょう:810ー?)は杜曲(陝西省西安市の南郊)の人。名を鄴(ぎょう)といい、武陵は字(あざな)です。大中九年(855)のころ四十六歳くらいで進士に及第しますが、官途をあきらめ、琴を携えて諸国を放浪します。易者になるなどして暮らし、洞庭湖付近の風景を愛して湖辺に定住したいと思いますが果たせず、嵩山の南に隠棲しました。没年は不明です。
 于武陵はこの一首が『唐詩選』に載ったことで名を残します。「金屈巵」は黄金製の杯で、曲がった把手のついた椀形の大杯です。同型と目される酒器が何家村の穴倉から出土しています。一帯は長安の興化坊の跡で、一角に章懐太子の子李守礼(りしゅれい)の子孫の邸宅がありました。
 金屈巵は一般の酒席に用いるものではなく、ここでは酒宴の豪華な雰囲気を出すために用いたのでしょう。転結句は対句になっていますので、結句の「人生」は「人生まれては」と訓じるのがよいとする説に従いました。
 この詩には井伏鱒二の『厄除け詩集』にカナ訳がありますので、つぎに掲げます。

       コノサカヅキヲ受ケテクレ
       ドウゾナミナミツガシテオクレ
       ハナニアラシノタトヘモアルゾ
       「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 井伏訳は人口に膾炙しており、後半二句は名訳として名高いのでご存じでしょう。ただし、豪華な酒宴の気分がうまく訳されていないので、原詩よりは哀愁のまさった詩になっているとの評があります。

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