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ティェンタオの自由訳漢詩 1865

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 初唐5ー王積
   野望              野の望め

  東皐薄暮望     東皐(とうこう)  薄暮(はくぼ)に望み
  徙倚欲何依     徙倚(しい)     何(いず)くに依(よ)らんと欲する
  樹樹皆秋色     樹樹(じゅじゅ)  皆(み)な秋色(しゅうしょく)
  山山唯落暉     山山(さんさん)  唯(た)だ落暉(らくき)
  牧人駆犢返     牧人(ぼくじん)  犢(こうし)を駆(か)って返り
  猟馬帯禽帰     猟馬(りょうば)  禽(とり)を帯(お)びて帰る
  相顧無相識     相顧(あいかえり)みるに相識(そうしき)無く
  長歌懐采薇     長歌(ちょうか)して  采薇(さいび)を懐(おも)う

  ⊂訳⊃
          東の丘に登り  夕暮れの野原を眺める
          私はいったい  どこに身を寄せようとしているのか
          樹々はみな  秋の気配を帯び
          山はやがて  落日に映えて輝くだろう
          牧人は    子牛を追って家に帰り
          猟師は馬で  獲物を下げて帰る
          あたりを見まわすが  みな知らない人ばかり
          だから私は詩を吟じ  伯夷・叔斉を思うのだ


 ⊂ものがたり⊃ 貞観期の宮廷詩は南朝の宮体詩の影響の強いものでしたが、むしろ政事の世界を嫌って野に隠れた知識人の詩に新しい詩の芽生えが見られます。王積(おうせき)はそのひとりです。
 王積(585ー644)は絳州龍門(山西省河津県)の人。隋末の儒者王建(おうけん)の弟で、長じて隋に仕えましたが天下の乱れを嫌い、官を辞して故郷に帰りました。唐になると召し出されて門下省の侍詔になりますが、再び職を辞して黄河の近くに隠棲しました。
 王積の詩は五言律詩の初期の作例を示すものとして注目されています。中四句二組の対句を前後の二聯で囲む形式で、はじめの二句は場面の設定です。「東皐」(東の丘)に登って日暮れの野原を「望(なが)め」、拠り所の定まらない不安な心情を示します。
 中四句のはじめ二句は丘から見える秋の景色。つぎの二句は家路を急ぐ人々で、陶淵明の詩の影響があります。結びの二句は孤独感の表明であり、「采薇」は『史記』伯夷伝の伯夷・叔斉のことです。この故事の引用から王積が太宗の即位の在り方になじめないものを感じ、隠退を決意したのかも知れないという事情を窺うこともできるでしょう。

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