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ティェンタオの自由訳漢詩 2139

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 晩唐10ー温庭筠
     菩薩蛮               菩薩蛮

  玉楼明月長相憶   玉楼(ぎょくろう)  明月  長(とこし)えに相憶(あいおも)う
  柳糸裊娜春無力   柳糸(りゅうし)   裊娜(じょうだ)として  春  力無し
  門外草萋萋      門外(もんがい)  草  萋萋(せいせい)たり
  送君聞馬嘶      君を送って  馬の嘶(いなな)くを聞く

  画羅金翡翠      画羅(がら)  金翡翠(きんひすい)
  香燭銷成涙      香燭(こうしょく)は銷(と)けて涙(なんだ)と成る
  花落子規啼      花は落ち  子規(しき)は啼(な)き
  緑窓残夢迷      緑窓(りょくそう)に  残夢(ざんむ)迷う

  ⊂訳⊃
          高楼に明月  いつまでも君を想う
          柳の枝は   なよなよと揺れてけだるい春
          門外に    草は青々と茂り
          見送れば   嘶く馬の声がする

          薄絹の布団に  金色の翡翠の刺繍
          蝋燭はとけて  涙となる
          花は散り     杜鵑は鳴いて
          窓のあたりを  夢の余韻がさまようであろう


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「菩薩蛮」(ぼさつばん)は開元のころに西域からもたらされたイスラム教徒の歌曲で、その曲に合わせて替え歌の詞を作ったのがこの詞です。題と内容は関係ありません。
 女性が主人公の双調(二段構えの詞)です。春の明月の夜、女性は勾欄にもたれてもの思いにふけっています。上片二句目は柳の描写ですが、女性の姿と重なって優婉です。「柳糸」(柳の枝)は折楊柳を意味し、別れをみちびく語でもあります。三四句は男を見送る場面で、男は青草の茂るなかを騎馬で去っていき、馬のいななく声が聞こえてきます。
 下片で女性は部屋にもどって一度ねむり、夜中に目が覚めます。「画羅」(模様のある薄絹)の布団にはつがいの「翡翠」(かわせみ)が金糸で刺繍されており、燭台の蝋燭は融けて涙のように垂れ下がっています。ここはひとり寝の寂しさを詠う定石の詩句です。
 やがて花は散り、「子規」(杜鵑・ほととぎす)が鳴き、部屋の窓辺に見残した夢の余韻がさまようであろうと優雅に詠います。

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