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ティェンタオの自由訳漢詩 2131

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 晩唐2ー許渾
    金陵懐古              金陵懐古 

  玉樹歌残王気終   玉樹(ぎょくじゅ)の歌(うた)残りて王気(おうき)は終わり
  景陽兵合戍楼空   景陽(けいよう)  兵(へい)合わせて戍楼(じゅろう)空し
  松楸遠近千官冢   松楸(しょうしゅう)  遠近(えんきん)  千官(せんかん)の冢(つか)
  禾黍高低六代宮   禾黍(かしょ)   高低(こうてい)  六代(りくだい)の宮
  石燕払雲晴亦雨   石燕(せきえん)  雲を払いて  晴  亦(ま)た雨
  江豚吹浪夜還風   江豚(かとん)   浪を吹いて  夜  還(ま)た風
  英雄一去豪華尽   英雄(えいゆう)  一(ひと)たび去りて豪華(ごうか)尽き
  惟有青山似洛中   惟(た)だ青山(せいざん)の洛中(らくちゅう)に似たる有り

  ⊂訳⊃
          玉樹後庭花は残り  王朝の命運は尽きる
          景陽殿は攻められ  城楼はむなしい
          遠く近く松や楸は   臣下百官の墓
          波打つ禾黍の畑は  六朝の宮の址
          礫は風に飛ばされ  晴れと思えば雨になり
          江豚は潮を吹いて  夜にはさらに風が吹く
          英雄が一度去れば  栄華の日々は消え
          緑の山々だけが   都のあとを偲ばせる


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「金陵」(きんりょう)は南朝の旧都、許渾の故郷の地でもあります。「玉樹歌」は南朝最後の王朝陳の後主陳叔宝(ちんしゅくほう)が作った「玉樹後庭花」のことで、唐代に歌い継がれていました。「景陽」は陳の景陽殿のことで、隋の兵が攻め込んできたとき、陳叔宝は寵妃とともに宮殿の井戸に隠れていましたが、捕らえられて隋の大興城(長安)に連行されました。
 中四句二組の対句で旧都の荒廃したようすを描きます。遠く近くに点在する「松楸」(まつ・ひさぎ)は墓に植える習慣の木で、王朝の臣下の墓が連なっています。「禾黍」は『詩経』王風の「黍離(しょり)」を踏まえており、王宮の址はきび畑になっています。
 「石燕」は小石のことで風に遭えば礫のように飛びます。「江豚」はイルカに似た水棲動物で、鯨のように潮を吹くといいます。江南の特異な風物を挙げて変わりやすい天候を描き、英雄の威業もひとたび王気が去れば、「惟だ青山の洛中に似たる有り」と栄枯盛衰の空しさを詠います。

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