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ティェンタオの自由訳漢詩 2112

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 中唐109ー張祜
     雨淋鈴             雨淋鈴

  雨淋鈴夜却帰秦   雨淋鈴(うりんれい)の夜  却(かえ)って秦(しん)に帰る
  猶是張徽一曲新   猶(な)お是(こ)れ張徽(ちょうき)   一曲新たなり
  長説上皇垂涙教   長(つね)に説(と)く 上皇 涙を垂れて教えしを
  月明南内更無人   月明(げつめい)の南内(なんだい)  更に人無し

  ⊂訳⊃
          しとしとと雨降る夜の鈴の音  都に帰り

          張徽の奏する曲を聞くにつれ  思いはあらた

          涙をながしつつ    上皇様は教えて下された

          月影明るい南内に  かつての人の姿はないと


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「雨淋鈴」は楽府題ですが、玄宗皇帝がつくった曲と伝えられています。安禄山の乱のとき、玄宗は馬嵬駅で楊貴妃を殺し、蜀道を越えて益州(四川省成都市)に蒙塵しました。
 蜀の桟道を越えるとき雨がつづき、霧のなか馬の鈴の音が山々にこだましました。玄宗はその鈴の音をもとに楊貴妃を悼む曲をつくり、「雨淋鈴」と名づけたといいます。その曲を宮廷楽士の張徽に与え、乱が収まって長安に帰ったのちも張徽に演奏させて涙にむせんだと伝えられています。
 詩はその物語をそのまま描いていますが、曲名「雨淋鈴」を巧く詩中に織り込んでいます。結句の「南内」は興慶宮のことで、北の大明宮に対して南内といいます。興慶宮は玄宗が楊貴妃と愛の日々を送った宮殿であり、「更に人無し」はもはや楊貴妃の姿はないと嘆くのです。

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