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ティェンタオの自由訳漢詩 2108

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 中唐105ー薛濤
   春望四首 其三      春望 四首 其の三

  風花日将老     風(ふう)  花(か)  日に将(まさ)に老いんとす
  佳期猶渺渺     佳期(かき)  猶(な)お渺渺(びょうびょう)たり
  不結同心人     結ばず    同心(どうしん)の人
  空結同心草     空しく結ぶ  同心の草

  ⊂訳⊃
          吹く風に    花は散ろうとしているが

          約束の日は  遥かかなたに消えてゆく

          愛する人を  結びもせず

          同心草は   野にむなしく揺れるだけ


 ⊂ものがたり⊃ 白居易や元稹が活躍していた貞元から元和にかけて名を馳せた女流詩人に、薛濤(せっとう)がいます。薛濤(768?ー831?)は長安(陝西省西安市)の人。良家の子女でしたが、父の転勤によって蜀(四川省東部)に移住し、父親の没後、零落して妓女となりました。
 詩に巧みで女校書とよばれ、成都を訪れた白居易や元稹など多くの文人と交流しました。晩年には杜甫の旧居の地、浣花渓に住み、深紅色の紙箋をつくり、いまも薛濤箋の名で知られています。生年は推定ですが、元和元年(806)に三十九歳くらいでした。文宗の太和五年(831)ころになくなり、享年六十四歳くらいです。
 詩題の「春望」(しゅうぼう)は春の眺めという意味で、花も散ろうとする晩春です。この詩には佐藤春夫の支那歴朝名媛詩鈔『車塵集』(昭和四年 武蔵野書院)に雅語による訳がありますので、つぎに掲げます。
       つみ草
   しづこころなく散る花に
   長息(なげき)ぞながきわがたもと
   なさけをつくす君をなみ
   摘むやうれひのつくづくし
 な音とつ音で情緒をかもし出し、名訳として名高いのですが、訳には原詩にない「たもと」と「つくづくし」がでてきます。つくづくしは土筆のことで早春の草です。「つくづくし」に情をつくす意をかけたのかもしれませんが、かなりの翻案になっています。
 「佳期」はめでたい時期、転じて結婚や逢引の日をいいます。「同心」は心を同じくすること、男女が約束を交わすことです。「同心草」という草は不明ですが、「同心結」は恋文の意味です。だからこの詩は、下さった恋文、あれはなんだったのですかと、たよりないわが身を野草と重ね合わせて嘆く詩になります。
   

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