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ティェンタオの自由訳漢詩 2086

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 中唐83ー柳宗元
    漁翁                   漁翁

  漁翁夜傍西巌宿   漁翁(ぎょおう)  夜  西の巌(いわお)に傍(そ)いて宿る
  暁汲清湘燃楚竹   暁(あかつき)に清湘(せいしょう)を汲み楚竹(そちく)を燃やす
  煙銷日出不見人   煙(もや)銷(き)えて日(ひ)出(い)で人を見ず
  欸乃一声山水緑   欸乃(あいだい)  一声   山水(さんすい)緑なり
  迴看天際下中流   天際(てんさい)を迴(かえ)り看(み)て中流に下る
  巌上無心雲相逐   巌上(がんじょう)  無心に  雲(くも)相逐(あいお)う

  ⊂訳⊃
          漁夫の翁は   西山の岩蔭で夜をすごし
          夜明けに湘水の水を汲み  楚竹を燃やす
          靄は晴れて朝日が昇るが  人影はなく
          一声高く舟を漕ぎ出せば   山水は緑色
          天の果てを振り返りつつ   中流を下れば
          岩山の上空で  雲は無心に雲を追う


 ⊂ものがたり⊃ 名作「江雪」(10月18日のブログ参照)を元和七年冬の作とする説にたてば、貶謫の孤独、寂寞を自分にふさわしいものとして受け入れようとする心情、その究極において到達した心象風景を詠ったものとして読むこともできます。
 永州初期の詩は韻律の制約の少ない五言古詩、しかも長篇の作品が多かったのですが、それは揺れ動く複雑な心を吐露するために必要な形式でした。しかし、貶謫七年をへて諦めの心情が深くなると、詩は短く凝縮されたものになります。五言絶句「江雪」は、その究極の姿と言っていいかもしれません。
 元和八年(813)、友人に送った八十韻(160句)の五言古詩では、自殺しようと思ったことさえあったと詠っています。それがいつのことか不明ですが、悲痛のあまり自死を考えたこともあったのです。楚の屈原に通じる思いもあったのでしょう。
 詩題の「漁翁」は「江雪」の蓑笠の翁を思わせ、屈原の作とされる楚辞「漁父」(ぎょほ)を思わせます。世俗を超越した隠者漁父のイメージは漢代には確立しており、唐代に多くの詩人が取り上げるテーマになっていました。
 七言六句のこの古詩の制昨年は不明ですが、柳宗元はみずからを漁父として、その生活の一端を描きます。「暁に清湘を汲み楚竹を燃やす」のは朝食を炊くのであり、「欸乃」は舟に棹さして漕ぎ出すときの掛け声です。
 結びの一句は陶淵明の詩興に通じるものがあり、隠遁して自然のなかに無心の境地を求めようとします。自死ではなく隠遁を選ぼうとするこころの表明でしょう。

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