中唐62ー賈島
病蝉 病蝉
病蝉飛不得 病蝉(びょうせん) 飛ぶことを得ず
向我掌中行 我が掌中(しょうちゅう)に向(おい)て行く
折翼猶能薄 折翼(たくよく) 猶(な)お能(よ)く薄(おお)い
酸吟尚極清 酸吟(さんぎん) 尚(な)お清(せい)を極む
露華凝在腹 露華(ろか) 凝(こ)りて腹(はら)に在り
塵点誤侵睛 塵点(じんてん) 誤って睛(ひとみ)を侵(おか)す
黄雀并鳶鳥 黄雀(こうじゃく) 并(なら)びに鳶鳥(えんちょう)
倶懐害爾情 倶(とも)に爾(なんじ)を害せんとするの情(じょう)を懐(いだ)く
⊂訳⊃
傷ついた蝉は 飛ぶことができず
私に手の平で 弱々しく動いている
破れた翅は どうにか体を覆っているが
辛そうな声は なお住み切って清らかだ
蝉の腹には 輝く露がついているが
瞳にはなんと 小さな傷を負っている
雀や鳶たちは いつもお前に狙いを定め
喰い殺そうと 思っているのだ
⊂ものがたり⊃ 韓愈と知り合った賈島は、すすめられて還俗します。ふたたび進士に挑戦しますが、及第したかどうかは不明です。任官後のある日、都内を微行していた宣宗に無礼があったとして遂州(四川省蓬渓県)の主簿に左遷されます。
詩題の「病蝉」は傷ついた蝉、弱った蝉のことです。蝉はこれまで世俗にとらわれない高潔な人格、節操の高い人物の喩えとして詠われてきました。それが一転して「病蝉」です。はじめの二句で作者は飛ぶことのできない蝉をみつけ、掌に乗せて弱々しく動くのを見ています。
中二聯の対句はその観察です。「折翼」は裂けた翼、「酸吟」は辛そうな声。破れた翅はなんとか体を覆い、鳴き声も澄んでいます。腹には清らかな露がついていますが、目に「塵点」(小さな傷)があります。そこで作者は誰にやられたのかと、蝉を傷つけたものを想像します。
「黄雀」や「鳶鳥」は宮廷の小人物に喩えられる鳥で、これらの鳥はいつもお前を喰い殺そうと狙っているのだと蝉に声をかけます。高潔な者がわざわいに逢いやすいと世相を風刺している詩と解され、また自分自身を「病蝉」に喩えていると見ることもできます。
病蝉 病蝉
病蝉飛不得 病蝉(びょうせん) 飛ぶことを得ず
向我掌中行 我が掌中(しょうちゅう)に向(おい)て行く
折翼猶能薄 折翼(たくよく) 猶(な)お能(よ)く薄(おお)い
酸吟尚極清 酸吟(さんぎん) 尚(な)お清(せい)を極む
露華凝在腹 露華(ろか) 凝(こ)りて腹(はら)に在り
塵点誤侵睛 塵点(じんてん) 誤って睛(ひとみ)を侵(おか)す
黄雀并鳶鳥 黄雀(こうじゃく) 并(なら)びに鳶鳥(えんちょう)
倶懐害爾情 倶(とも)に爾(なんじ)を害せんとするの情(じょう)を懐(いだ)く
⊂訳⊃
傷ついた蝉は 飛ぶことができず
私に手の平で 弱々しく動いている
破れた翅は どうにか体を覆っているが
辛そうな声は なお住み切って清らかだ
蝉の腹には 輝く露がついているが
瞳にはなんと 小さな傷を負っている
雀や鳶たちは いつもお前に狙いを定め
喰い殺そうと 思っているのだ
⊂ものがたり⊃ 韓愈と知り合った賈島は、すすめられて還俗します。ふたたび進士に挑戦しますが、及第したかどうかは不明です。任官後のある日、都内を微行していた宣宗に無礼があったとして遂州(四川省蓬渓県)の主簿に左遷されます。
詩題の「病蝉」は傷ついた蝉、弱った蝉のことです。蝉はこれまで世俗にとらわれない高潔な人格、節操の高い人物の喩えとして詠われてきました。それが一転して「病蝉」です。はじめの二句で作者は飛ぶことのできない蝉をみつけ、掌に乗せて弱々しく動くのを見ています。
中二聯の対句はその観察です。「折翼」は裂けた翼、「酸吟」は辛そうな声。破れた翅はなんとか体を覆い、鳴き声も澄んでいます。腹には清らかな露がついていますが、目に「塵点」(小さな傷)があります。そこで作者は誰にやられたのかと、蝉を傷つけたものを想像します。
「黄雀」や「鳶鳥」は宮廷の小人物に喩えられる鳥で、これらの鳥はいつもお前を喰い殺そうと狙っているのだと蝉に声をかけます。高潔な者がわざわいに逢いやすいと世相を風刺している詩と解され、また自分自身を「病蝉」に喩えていると見ることもできます。