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ティェンタオの自由訳漢詩 2006

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 中唐3ー張継
    楓橋夜泊             楓橋夜泊

  月落烏啼霜満天   月落ち  烏(からす)啼いて 霜  天に満つ
  江楓漁火対愁眠   江楓(こうふう)  漁火(ぎょか)  愁眠(しゅうみん)に対す
  姑蘇城外寒山寺   姑蘇(こそ)城外  寒山寺(かんざんじ)
  夜半鐘声到客船   夜半の鐘声(しょうせい)  客船(かくせん)に到る

  ⊂訳⊃
          月は隠れ  烏は啼いて  空に寒気が満ちている

          川辺の楓樹や漁り火が  夢うつつの目に映る

          姑蘇の城外  寒山寺

          夜半を告げる鐘の音が  舟の上まで聞こえてくる



 ⊂ものがたり⊃ 張継(生没年不詳)は南陽(河南省南陽市)の人とも襄州(湖北省襄陽市)の人ともいいます。天宝十二載(753)に進士に及第し、はじめ節度使の幕僚になりました。大暦年間に朝廷に入り、検校祠部員外郎、洪州塩鉄判官などを勤めます。
 『唐詩選』に、この七言絶句一首だけが載っている詩人ですが、その一首が名作中の名作として万人に愛唱されています。詩題の「楓橋」(ふうきょう)は蘇州の西、約五十kmのところにある橋で、運河に流入する水路に架かっています。
 楓橋のほとりで舟泊まりした翌日、前夜の「夜半」(真夜中)に目覚めたときの景を詠いました。詩中に「客船」とあるので、小舟での孤独な旅ではなく、大きな船で一泊したあと船内での宴会か何かの席で披露した詩でしょう。
 起承句で詩を作ったときの状況を詠います。「愁眠」はもの思いのために寝つくことができず、まどろんではすぐに目覚める浅い眠りのことです。夜半に目覚めると月は落ち、烏が鳴いています。烏が鳴くのは明け方の風物ですが、「烏夜啼」(うやてい)という楽府題があって、烏が夜中に鳴くのは吉兆とされていました。
 「霜 天に満つ」は中国古代の考え方で、霜や露は空気中の気が凝結して地上に落ちてくると考えられていました。だから、いまにも霜が降りて来るような寒い夜だったというのです。「江楓」は岸辺の楓樹。楓は秋に紅葉するので、それが「漁火」に映えていっそう赤く見えるのでしょう。水路は広くないので、近くの岸辺に繋がれた漁舟のかがり火と思われます。
 転結句では「寒山寺」(楓橋寺ともいう)から鐘の音が聞こえてきます。「姑蘇」は春秋時代に呉王夫差(ふさ)の宮殿があった台の名ですが、ここでは蘇州城を雅して言うのでしょう。寒山寺は楓橋の近くにあり、寒山・拾得が住んでいたという伝説のある寺です。
 この詩には銭起の詩にあるような現状批判と見られる暗喩はありません。この詩が名詩とされるのは、濃密な抒情と中国語で読んだ場合の声調の美しさにありますが、筆で書いた場合の字並びの美しさもみごとであると評されています。総合的な詩美が時代を越えて愛されるのです。

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