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ティェンタオの自由訳漢詩 2005

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 中唐2ー銭起
     帰雁                帰雁

  瀟湘何事等?囘   瀟湘(しょうしょう)  何事ぞ  等閑(とうかん)に回(かえ)る
  水碧沙明両岸苔   水は碧(みどり)に  沙(すな)明らかに  両岸苔(こけ)あり
  二十五絃弾夜月   二十五絃  夜月(やげつ)に弾(だん)ずれば
  不勝清怨却飛来   清怨(せいえん)に勝(た)えずして  却飛(きゃくひ)し来たる

  ⊂訳⊃
          雁よ 瀟湘の地を見捨てて  どうして北へ帰るのか

          水はみどり  砂浜は明るく  岸辺は苔むして住みやすい

          夜半の月明かりのもと    二十五絃が奏でられると

          悲しげな音に堪えきれず   飛んで行ってしまうのか


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「帰雁」(きがん)は北へ帰る雁。起承句は雁への問いかけです。「瀟湘」は洞庭湖の南、瀟水と湘水の流れる湖南の地で、自然が美しく雁の好きな苔もあるのに、どうして「等閑」(なおざり)にして北へ帰るのかと問います。
 転結句では、北へ帰る雁の心境を想像して詠います。「二十五絃」は二十五本の絃が張ってある瑟(しつ:大型の琴)で、神話上の皇帝伏羲(ふつぎ)が作ったとされています。その「清怨」(もののあわれ)な音色に堪えきれずに北へ引き返すことにしたのかと想像します。 楚辞「遠遊」に「湘霊をして瑟を鼓せしめ」という句があり、湘霊は湘水に身を投げて女神になった舜帝の妃湘君のことです。この故事を踏まえて、「夜月」に哀しみの曲を奏でる湘君が想定されています。
 詩は銭起が瀟湘地方に左遷されていたとき、内輪の宴会で披露した作品と推定されており、政事への批判や絶望が遠まわしに表現されています。しかし、銭起が湖南に左遷されたということは伝記的には不詳です。山水詩を装いながら、そこに仲間内だけに分かる政事批判を混ぜ合わせるのは大暦の詩の一傾向でした。

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