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ティェンタオの自由訳漢詩 1993

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 盛唐87ー岑参
   白雪歌  送            白雪の歌 武判官
   武判官帰京            の京に帰るを送る       (前半十句)

  北風捲地白草折   北風(ほくふう)  地を捲(ま)いて白草(はくそう)折れ
  胡天八月即飛雪   胡天(こてん)八月  即ち雪を飛ばす
  忽如一夜春風来   忽(こつ)として一夜  春風(しゅんぷう)来たり
  千樹万樹梨花開   千樹万樹  梨花(りか)の開くが如し
  散入珠簾湿羅幕   散じて珠簾(しゅれん)に入って羅幕(らばく)を湿(うりお)し
  狐裘不煖錦衾薄   狐裘(こきゅう)煖(あたた)かならず  錦衾(きんきん)薄し
  将軍角弓不得控   将軍の角弓(かくきゅう)  控(ひ)くを得ず
  都護鉄衣冷難着   都護の鉄衣(てつい)    冷たくして着(ちゃく)し難し
  瀚海闌干百丈冰   瀚海(かんかい)  闌干(らんかん)として百丈(ひゃくじょう)冰(こお)り
  愁雲黲淡万里凝   愁雲(しゅううん)  黲淡(さんたん)として万里(ばんり)凝(こ)る

  ⊂訳⊃
          北風は大地を巻き上げて吹き  白草は折れ
          八月というのに    胡地の空には雪が舞う
          一夜にして雪景色  春風が吹いて
          幾千万の樹々に   梨の花を咲かせたようだ
          雪は簾から入って  兵舎の垂れ幕を潤おし
          狐の皮衣でも寒く  錦の布団でも薄過ぎる
          将軍の角飾り弓も  引くことができず
          都護の鉄の鎧も   冷たくて着ることができない
          広大な砂漠には   いたるところに厚い氷が張り
          雲は低く垂れ込め  万里の彼方まで凍えている


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「白雪(はくせつ)の歌」は琴曲の古典の名で、楽府題です。詩中後半に「輪台」の地名がありますので、岑参が北庭都護府に勤めていたとき、同僚の「武判官」(経歴不明)が都に帰ることになり、送別の宴で詠った詩です。
 はじめの四句で砂漠の珍しい天候が描かれます。「白草」は砂漠特有の草です。三句目と四句目は雪の情景で、一夜の雪で樹々に梨の花が咲いたように白くなると詠います。つぎの六句は寒波の襲来によってあらゆるものが凍えたようになるのを描きます。
 「珠簾」は真珠の簾と訳されることが多いのですが、「珠」は美称でしょう。「羅幕」は兵舎の垂れ幕で、「蘿」(薄絹)も美称でしょう。「角弓」は角飾りのある弓、「都護」はこの場合、北庭都護の封常清でしょう。「瀚海」(砂漠)も「愁雲」(鬱陶しい雲)もすべてが凍えています。

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