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ティェンタオの自由訳漢詩 1990

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 盛唐84ー岑参
   熱海行 送崔          熱海行 崔侍御の
   侍御還京             京に還るを送る        (後半八句)

  陰火潜焼天地爐   陰火(いんか)  潜(ひそ)かに天地の爐(ろ)を焼くも
  何事偏烘西一隅   何事ぞ 偏(ひと)えに西の一隅(いちぐう)を烘(あぶ)る
  勢呑月窟侵太白   勢い   月窟(げつくつ)を呑(の)んで太白(たいはく)を侵(おか)し
  気連赤坂通単于   気(き)  赤坂(せきはん)に連なって単于(ぜんう)に通ず
  送君一酔天山郭   君を送って一(ひと)たび酔う  天山の郭(かく)
  正見夕陽海辺落   正(まさ)に見る  夕陽(せきよう)の海辺(かいへん)に落つるを
  柏台霜威寒逼人   柏台(はくだい)  霜(しも)威(たけ)くして 寒(かん) 人に逼(せま)り
  熱海炎気為之薄   熱海(ねつかい)の炎気(えんき)  之(こ)れが為に薄し

  ⊂訳⊃
          地中の火熱が 天地の炉を燃やしているというのに
          どうしてこの   西の一隅だけをあぶるのか
          熱の勢いは   月の出る穴を飲み込み 金星を攻め
          熱気は      赤坂に連なって匈奴の土地におよぶ
          君を見送って  私は天山のほとりで酔い痴れ
          いままさに    夕陽は砂漠の果てに沈もうとする
          御史台に勤める君は  冬の霜のように厳格であり
          その厳しさは  熱海の熱も弱まるほどに人を打つ


 ⊂ものがたり⊃ 後半八句のはじめ四句で、熱海のイメージはさらに膨らんで幻想的になります。「陰火」は地下のマグマのことで、岑参の意識には火焔山での驚きが重なっています。「月窟」は月が洞窟から出てくるとされていた神話上の考え方であり、「太白」は金星のことです。「赤坂」は西域の地名、「単于」(匈奴の王)は匈奴の土地を示しますので、大地の熱気が天と地、異国の土地まで熱していると、ある種の危機意識を暗喩していると見るべきでしょう。
 最後の四句は結びで、あなたはこれから御史台にかえって国政に与かる身だから、厳格に事を処してほしいと言っています。厳しく対処することによって西域の問題も鎮火できるだろうと言っており、安西都護府での岑参の毎日が辺塞の感傷に浸るだけの日々でなかったことを示しています。

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