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ティェンタオの自由訳漢詩 1964

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 盛唐58ー孟浩然
   早寒有懐          早寒 懐う有り

  木落雁南渡     木(き)落ちて   雁(かり)  南に渡り
  北風江上寒     北風(ほくふう)  江上(こうじょう)に寒し
  我家襄水曲     我が家は襄水(じょうすい)の曲(くま)
  遥隔楚雲端     遥かに隔つ    楚雲(そうん)の端(たん)
  郷涙客中尽     郷涙(きょうるい)   客中(かくちゅう)に尽き
  孤帆天際看     孤帆(こはん)  天際(てんさい)に看(み)る
  迷津欲有問     津(しん)に迷うて問う有らんと欲すれば
  平海夕漫漫     平海(へいかい)   夕べに漫漫(まんまん)たり

  ⊂訳⊃
          葉が落ちて  雁は南へ飛び去り
          北風が     川のほとりに寒々と吹く
          私の家は   襄水の曲流するところにあり
          いま私は    楚地の雲から遠く隔たる
          望郷の涙は  旅の途中で尽き果て
          遥か彼方に  一艘の帆かけ舟
          船つき場は  何処にあるかと尋ねたいが
          夕暮れの中  水は満々と広がるがかり


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「早寒」(そうかん)は早く訪れた寒さ。晩秋の夕暮れどき、旅の悲しみと望郷の思いを詠います。はじめの二句で冬近い季節の到来を詠って状況を設定し、中四句で故郷へ帰りたい思いを述べます。
 「襄水」は故郷の襄陽を流れる川、その曲流するところに自宅があったようです。襄陽はかつての楚の地ですから「楚雲の端」といい、故郷から遠く離れていることを嘆きます。「孤帆 天際に看る」は遠くをゆく一艘の帆かけ舟、その舟に孤独な旅人である自分を重ねます。李白が孟浩然を見送った詩に似た句がありますが、前後関係は不明です。
 結びの二句では、舟上で途方に暮れる心境を述べて深い余韻を残します。「津」は渡し場のことで、人生行路の喩えにもなります。「平海」は長江下流の広い水面をいう場合が多いので、詩は長江下流を旅していたときに作られたものと思われます。
 江南の旅のあと、孟浩然は郷里に帰って隠棲の生活にもどりますが、開元二十八年(740)、訪れて来た王昌齢を歓迎して酒を飲み、病気を悪化させて亡くなったといいます。享年は五十二歳です。

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