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ティェンタオの自由訳漢詩 1961

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 盛唐55ー孟浩然
   夏日南亭懐辛大    夏日 南亭にて辛大を懐う

  山光忽西落     山光(さんこう) 忽(たちま)ち西に落ち
  池月漸東上     池月(ちげつ)  漸(ようや)く東に上る
  散髪乗夕涼     髪を散(さん)じて夕涼(せきりょう)に乗(じょう)じ
  開軒臥閑敞     軒(まど)を開いて閑敞(かんしょう)に臥(ふ)す
  荷風送香気     荷風(かふう)  香気(こうき)を送り
  竹露滴清響     竹露(ちくろ)  清響(せいきょう)を滴(したた)らす
  欲取鳴琴弾     鳴琴(めいきん)を取って弾(だん)ぜんと欲するも
  恨無知音賞     恨(うら)むらくは知音(ちいん)の賞(しょう)する無し
  感此懐故人     此(こ)れに感じて故人(こじん)を懐(おも)い
  中宵労夢想     中宵(ちゅうしょう)  夢想(むそう)を労せん

  ⊂訳⊃
          夏の光は  山を照らして西へ沈み
          空の月は  池に映って東に昇る
          髪をほどいて  夕涼みの時を楽しみ
          窓を開いて   静かな広い部屋に横たわる
          風に吹かれて  蓮の花の香りが流れ
          竹の露は    鈴を鳴らして滴るようだ
          琴を取り出し  一曲弾きたい気持ちだが
          残念ながら   耳を傾けてくれる友がいない
          それにつけて  君のことがしきりに思われ
          せめては夜の  夢の中でも思いつづけよう


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「南亭」は孟浩然の隠棲地にあった東屋です。「辛大」は辛という姓の友人で、仏教信者であったようです。詩は中央の二句を前後の四句で囲む特異な形式で、はじめの四句は、夏の日暮れのようすを外景と自分に分けて描き、導入部とします。「髪を散じて」は髪を束ねていない、つまり頭巾を被っていない姿であり、客の予定もなく部屋でくつろいでいる状態です。
 中央の二句は名句として名高い対句で、「閑敞」(静かで広い)の場を嗅覚と聴覚の両面から繊細に描いて感覚的です。この対句が無くても詩の意味は成り立ちますので、あとから付け加えた句とする説が行われていますが、この対句がなければ平凡な作品になってしまいます。ここがこの詩の重要な注目点です。
 後の四句では「荷風」の香気と「竹露」の清響に触発されて琴を弾きたいと思いますが、ここには「知音」(語り合える友)がいないと、「辛大」を懐かしく思う気持ちを述べて結びとします。
 

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