盛唐55ー孟浩然
夏日南亭懐辛大 夏日 南亭にて辛大を懐う
山光忽西落 山光(さんこう) 忽(たちま)ち西に落ち
池月漸東上 池月(ちげつ) 漸(ようや)く東に上る
散髪乗夕涼 髪を散(さん)じて夕涼(せきりょう)に乗(じょう)じ
開軒臥閑敞 軒(まど)を開いて閑敞(かんしょう)に臥(ふ)す
荷風送香気 荷風(かふう) 香気(こうき)を送り
竹露滴清響 竹露(ちくろ) 清響(せいきょう)を滴(したた)らす
欲取鳴琴弾 鳴琴(めいきん)を取って弾(だん)ぜんと欲するも
恨無知音賞 恨(うら)むらくは知音(ちいん)の賞(しょう)する無し
感此懐故人 此(こ)れに感じて故人(こじん)を懐(おも)い
中宵労夢想 中宵(ちゅうしょう) 夢想(むそう)を労せん
⊂訳⊃
夏の光は 山を照らして西へ沈み
空の月は 池に映って東に昇る
髪をほどいて 夕涼みの時を楽しみ
窓を開いて 静かな広い部屋に横たわる
風に吹かれて 蓮の花の香りが流れ
竹の露は 鈴を鳴らして滴るようだ
琴を取り出し 一曲弾きたい気持ちだが
残念ながら 耳を傾けてくれる友がいない
それにつけて 君のことがしきりに思われ
せめては夜の 夢の中でも思いつづけよう
⊂ものがたり⊃ 詩題の「南亭」は孟浩然の隠棲地にあった東屋です。「辛大」は辛という姓の友人で、仏教信者であったようです。詩は中央の二句を前後の四句で囲む特異な形式で、はじめの四句は、夏の日暮れのようすを外景と自分に分けて描き、導入部とします。「髪を散じて」は髪を束ねていない、つまり頭巾を被っていない姿であり、客の予定もなく部屋でくつろいでいる状態です。
中央の二句は名句として名高い対句で、「閑敞」(静かで広い)の場を嗅覚と聴覚の両面から繊細に描いて感覚的です。この対句が無くても詩の意味は成り立ちますので、あとから付け加えた句とする説が行われていますが、この対句がなければ平凡な作品になってしまいます。ここがこの詩の重要な注目点です。
後の四句では「荷風」の香気と「竹露」の清響に触発されて琴を弾きたいと思いますが、ここには「知音」(語り合える友)がいないと、「辛大」を懐かしく思う気持ちを述べて結びとします。
夏日南亭懐辛大 夏日 南亭にて辛大を懐う
山光忽西落 山光(さんこう) 忽(たちま)ち西に落ち
池月漸東上 池月(ちげつ) 漸(ようや)く東に上る
散髪乗夕涼 髪を散(さん)じて夕涼(せきりょう)に乗(じょう)じ
開軒臥閑敞 軒(まど)を開いて閑敞(かんしょう)に臥(ふ)す
荷風送香気 荷風(かふう) 香気(こうき)を送り
竹露滴清響 竹露(ちくろ) 清響(せいきょう)を滴(したた)らす
欲取鳴琴弾 鳴琴(めいきん)を取って弾(だん)ぜんと欲するも
恨無知音賞 恨(うら)むらくは知音(ちいん)の賞(しょう)する無し
感此懐故人 此(こ)れに感じて故人(こじん)を懐(おも)い
中宵労夢想 中宵(ちゅうしょう) 夢想(むそう)を労せん
⊂訳⊃
夏の光は 山を照らして西へ沈み
空の月は 池に映って東に昇る
髪をほどいて 夕涼みの時を楽しみ
窓を開いて 静かな広い部屋に横たわる
風に吹かれて 蓮の花の香りが流れ
竹の露は 鈴を鳴らして滴るようだ
琴を取り出し 一曲弾きたい気持ちだが
残念ながら 耳を傾けてくれる友がいない
それにつけて 君のことがしきりに思われ
せめては夜の 夢の中でも思いつづけよう
⊂ものがたり⊃ 詩題の「南亭」は孟浩然の隠棲地にあった東屋です。「辛大」は辛という姓の友人で、仏教信者であったようです。詩は中央の二句を前後の四句で囲む特異な形式で、はじめの四句は、夏の日暮れのようすを外景と自分に分けて描き、導入部とします。「髪を散じて」は髪を束ねていない、つまり頭巾を被っていない姿であり、客の予定もなく部屋でくつろいでいる状態です。
中央の二句は名句として名高い対句で、「閑敞」(静かで広い)の場を嗅覚と聴覚の両面から繊細に描いて感覚的です。この対句が無くても詩の意味は成り立ちますので、あとから付け加えた句とする説が行われていますが、この対句がなければ平凡な作品になってしまいます。ここがこの詩の重要な注目点です。
後の四句では「荷風」の香気と「竹露」の清響に触発されて琴を弾きたいと思いますが、ここには「知音」(語り合える友)がいないと、「辛大」を懐かしく思う気持ちを述べて結びとします。