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ティェンタオの自由訳漢詩 2029

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 中唐26ー韋応物
    滁州西澗               滁州の西澗

  独憐幽草澗辺生   独り憐(あわ)れむ  幽草(ゆうそう)の澗辺(かんぺん)に生ずるを
  上有黄鸝深樹鳴   上(かみ)に黄鸝(こうり)の  深樹(しんじゅ)に鳴く有り
  春潮帯雨晩来急   春潮(しゅんちょう)  雨を帯びて晩来(ばんらい)急に
  野渡無人舟自横   野渡(やと)  人無く  舟  自(おのず)から横たわる

        (注) 「澗」は外字になるので同音の字に変えてあります。
           本来は門構えのなかが「月」になっています。

  ⊂訳⊃
          心惹かれるのは  谷川の岸にひっそりと生える草

          上の方では鶯が  樹々の繁みで鳴いている

          春の川の流れは  日暮れの雨とともに急になり

          野原の渡し場に人影はなく  舟がぽつんと横たわる


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「西澗」(せいかん)は滁州城外にある上馬河です。「独り憐れむ」はひときわ心を動かされることをいいます。「幽草」(ひっそりと生えている草)に心惹かれるということは、控え目でないものを厭う心情の表現でしょう。
 転句の「黄鸝」(高麗鶯)には典拠があり、『詩経』小雅「伐木」の「幽谷自(よ)り出でて 喬木に遷る」を踏まえています。この句は出世を意味しますが、詩では「上に黄鸝の 深樹に鳴く有り」となっており、黄鸝が高い木に飛び移れないまま繁みで鳴いているのです。「幽草」も「黄鸝」も比喩と思われ、能力のある者が見捨てられ、口先の上手な者が出世するような世を批判しているのでしょう。
 後半は水辺の眺めです。「春潮」は春になって水かさの増した川の流れで、折からの雨のなか日暮れになってますます急な流れになっています。岸に「野渡」(野の渡し場)があって、人の姿はなく舟だけが所在なさそうに横たわっています。みごとな風景描写であり、同時に急な流れの岸辺で乗り手もなく放置されている舟は、不穏な世相のなか、しっかりした為政者のいない政事の現状を暗に批判するものと受け取ることができます。    

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